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【社会】

設楽ダム事業の評価水増し 流水維持効果に建設費分を計上

2009年10月11日 朝刊

 (※1)洪水予想の被害額から算出 (※2)ダム建設事業費2070億円のうち国負担から算出 【注】ダム完成から50年分で試算

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 国土交通省が計画している設楽ダム(愛知県設楽町、9800万トン)の妥当性を示す「費用対効果」の算出をめぐり、豊川の水量を維持する環境保全の名目で建設事業費とほぼ同額を便益効果として計上、事業効率の数値を高めていたことが、本紙の調べで分かった。同じ算出手法は他のダムにも使われている。前原誠司国交相がダム事業の見直しに踏み込む中、議論を呼ぶことになりそうだ。

 費用対効果は、事業で得られる便益の試算額を建設と維持管理費の支出合計で割った値。国の公共事業は「1」を超える必要があり、国交省中部地方整備局(名古屋市)によると、設楽ダムは今年2月の事業評価で「2・8」と公表している。

 便益の試算額で「治水」(3230億円)に次いで大きいのが「流水の正常な機能の維持」(1269億円)。国交省は10年に1度の渇水時でも川が枯れないよう水を確保し、生き物を守る環境保全の効果と説明するが、実際は効果を計算できないため流水維持に必要な6000万トン級のダム建設費に当たる1269億円を代わりに計上していた。

 こうした試算方法は、1997年の河川法改正で環境保全が重視されて以降、ダムの便益効果に幅広く用いられるようになった。しかし、建設費の一部が効果に計上されれば、結果的に費用対効果を押し上げる。

 国交省によると、流水維持効果を建設費で代用することを公的に裏付けた計算マニュアルや通知はない。同省は環境保全の効果の試算はできないとした上で「水を確保するにはダムでためるしか方法がない。その建設費を効果額とみなすのが妥当」(河川環境課)と主張する。

 建設費を支出と効果に2重計上する手法は、農林水産省も用水やダム事業で用いていたが、「費用が効果という理屈はおかしい」との専門家の批判もあり2年前に廃止した。

 環境保全を掲げる設楽ダムは、流水維持の水量が貯水量全体の6割を占める。環境保全の効果をゼロと仮定すると、費用対効果は「2・0」に低下。国交省が昨年に本体着工した青森県の津軽ダムは、現行の「1・3」から不採算の「0・6」となる。

 設楽ダムは73年に計画発表。農業用水、水道用水、治水などを目的とした国直轄事業で、2020年度に完成予定。

◆他ダムも見直しを

 <愛知大の宮入興一教授(財政学)の話> 水需要は減ったのに、大きなダムを造りたいがために、環境保全を新たな口実にしている。その費用を効果とみなす一方で、ダムが環境にもたらすマイナス面は考慮せず、費用対効果を高く見せ掛けた。納税者に投資効率を説明するための数値なのに、だますことに利用したかたちだ。ほかのダムも徹底的に見直す必要がある。

 

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