ファイル共有ソフト「Winny(ウィニー)」を巡る著作権法違反のほう助事件で8日、開発・公開した金子勇被告に逆転無罪を言い渡した大阪高裁判決の要旨は次の通り。
【主文】原判決破棄。被告人は無罪
【理由】
◆ウィニーの技術的評価
技術、機能を見ると、著作権侵害に特化したものではなく、多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に可能にする有用性があるとともに、著作権の侵害にも用い得るという価値中立のソフトであると認めるのが相当。
◆1審判決が示したほう助犯成立の基準
原判決はウィニーが価値中立的な技術であることを認定した上で、外部への提供行為自体がほう助行為として違法性を有するかは、(1)その技術の社会における現実の利用状況や(2)それに対する認識(3)さらに提供する際の主観的態様による--との基準を示した。
しかし、ファイル共有ソフトによる著作権侵害の状況について把握するのは困難で、どの程度の割合の利用状況によってほう助犯が成立するのか原判決の基準では判然としない。また、いかなる主観的意図の下で開発されたとしても、主観的意図がインターネット上で明らかにされることが必要か否かが原判決の基準では判然とせず、基準は相当でない。
◆控訴審判決が新たに示した基準
開発したソフトをインターネット上で公開した提供者はダウンロードした者を把握できず、違法行為をしているかを把握できない。価値中立のソフトを提供した行為について、ほう助犯の成立を認めれば、ソフトが存在し、ソフトを用いて違法行為をする者が出てくる限り、提供者は刑事上の責任を無限に問われることになる。ほう助犯として刑事責任を問うことは罪刑法定主義の見地からも慎重でなければならない。ソフトの提供者が不特定多数の者のうちには違法行為をする者が出る可能性・蓋然(がいぜん)性があると認識し、認容しているだけでは足りず、それ以上にソフトを違法行為の用途のみに、または主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めて提供した場合にほう助犯が成立すると解すべきである。
毎日新聞 2009年10月9日 東京朝刊