不公正税制
|
|
輸出上位10社で戻し税1兆円
|
|
消費税収の23%が大企業へ トヨタ1社で2,291億円
関東学院大学教授 湖東 京至さんが試算 |
「大企業減税の動きが活発になっていますが、大企業はすでに十分に優遇されています。その最たるものが輸出戻し税なんです」と指摘するのは関東学院大学教授の湖東京至さん。経済財政諮問会議は、減価償却制度の拡充や法人税の実効税率の引き下げで、総額1兆円規模ともいわれる大企業減税を検討。政府税調の新会長には、法人税減税が持論の本間正明大阪大教授が指名され、安倍政権のめざす方向がいよいよ明らかになりました。
10社に約1兆円の輸出戻し税
私の最新の試算によれば、輸出上位10社になんと約1兆円の輸出戻し税があるのです(図参照)。輸出戻し税がなぜ許されるのでしょうか。日本の消費税やヨーロッパの付加価値税は、売上にただ5%を掛けるという税金ではなく、そこから仕入などに入っている消費税5%分を引き、納める税金を計算する方式(仕入税額控除方式)です。
しかし、国内で売った場合には5%転嫁できますが、海外に売った場合には、お客さまからは取れないということで、(海外売上高)×(ゼロ税率)=ゼロとなってしまうのです。結局、輸出販売に対する仕入に入っていた税金というのはすべて戻ってくるしくみです。
では、トヨタの場合はどれくらい戻ってくるのか。(国内売上高)×5%から、(国内売上高に対する仕入高)×5%を引くと、374億円ほど納税額が出ます。本来これは納めなければいけないのです。ところが輸出戻し税の計算をすると、2665億円も戻ってきますから、そこから国内の納める分374億円を引いて、なお2291億円ほどがトヨタに還付(図参照)されることになるのです。
それでは大企業にどのくらい、還付税があるのか。消費税全体の税収が、地方消費税を入れて5%で計算すると約13兆円です。そのうち、約23%の3兆円も還付をしているのです(平成18年度予算)。
◆05年分、輸出上位10社の輸出戻し税と還付金の試算 |
関東学院大学教授・湖東京至作成(単位:億円) |
会社名 |
総売上高 |
内輸出
売上高 |
輸出戻し
税 額
(A) |
国内売上に対し
納税すべき
消費税
(B) |
差引還付
税 額
(A)−(B) |
1 トヨタ自動車 |
101,918 |
65,125 |
2,665 |
374 |
2,291 |
2 日産自動車 |
38,955 |
29,294 |
1,266 |
68 |
1,198 |
3 本田技研工業 |
37,570 |
25,519 |
1,072 |
108 |
964 |
4 ソニー |
31,795 |
22,574 |
1,152 |
26 |
1,126 |
5 松下電器産業 |
44,725 |
19,232 |
822 |
206 |
616 |
6 キャノン |
24,814 |
19,156 |
837 |
64 |
773 |
7 東芝 |
32,574 |
15,310 |
659 |
133 |
526 |
8 マツダ |
20,321 |
14,143 |
649 |
28 |
621 |
9 日立製作所 |
27,133 |
10,446 |
443 |
136 |
307 |
10 三菱重工業 |
22,067 |
9,687 |
409 |
104 |
305 |
合 計 |
|
|
9,974 |
1,247 |
8,727 |
|
(注1)各社の事業年度は05年4月1日〜06年3月31日(ただしキャノンだけは05年1月1日〜05年12月31日)
(注2)各社の総売上高は有価証券報告書により、内輸出売上高は各社のホームページなどによって調べた
(注3)各社の「輸出戻し税額」、「国内売上に対し納税すべき消費税」および「差引納税額」は地方消費税分を含め、5%として計算した
(注4)財務省主税局『平成17年度税制改正の要綱、租税および印紙収入予算の説明』によれば、05年度の還付見込税額は地方消費税分を含めおよそ3兆円と計算されている。したがって上位10社でおよそ還付見込み額3兆円の33%を占めていることになる
|
トヨタへの還付金
赤字の豊田税務署
問題なのは、トヨタは納めすぎた税金を還付してもらっているのではなく、一度も消費税を税務署に納めたことがないということです。では誰が納めたかといえば、トヨタの何万という全国の下請けが各地の税務署に必死で納めた税金です。それを豊田税務署がトヨタ1社にドーンと戻すのです。豊田税務署は還付金が多く赤字の税務署です。
経済取引は、強い企業が単価を決めます。トヨタが「消費税を払っています」といくら言ってみても、下請け単価を叩きに叩いているわけだから、実際には払っていないのと同じです。形式的に払ったといわれているものを税務署から返してもらっているのです。
消費者の方々は自分たちが払った5%が、と思うでしょうが、消費税そのものは預り金でも預り金的な税金でもなく、第2事業税みたいなものです。下請け業者が苦労して納めた税金を、なぜトヨタ1社が持っていくのかという問題です。
仕入税額控除方式による輸出戻し税制度というのは、ヨーロッパをはじめとして、この税制を採用している国はすべてやっています。付加価値税・消費税タイプの税制をやっていない国が1カ国あります。それはアメリカです。アメリカは輸出戻し税を、実質的には輸出補助金だと言っています。GATT(関税貿易一般協定)では、国が輸出企業に補助金を出してはいけないと決まっています。私は、消費税は輸出補助金にほかならず、GATT協定違反の税制だと思います。
大企業に戻す社会
保障財源なんて
最近、「消費税を社会保障財源にする」と、政府や政府税調、経済財政諮問会議、自民党税調まで言い出しています。石前政府税調会長も同様のことを言っていますが、かつて政府税調は消費税の社会保障財源化にはっきりと反対していたのです。この論理の一番の問題点は、輸出戻し税があるということです。トヨタなど輸出大企業は、消費税を実質的にまったく負担しないばかりか戻ってくるのです。社会保障財源を負担するのではなく補助金をもらう。戻ってくる社会保障負担というのがあっていいのでしょうか。信じられない論理のトリックです。
景気の回復が言われていますが、国内の中小企業の状況を見れば、内需の伸び悩みで好況感がない。景気が良いのは輸出大企業がほとんどです。こうした大企業をさらに後押ししているのが、実は輸出戻し税制度なのです。内需が伸びなくても輸出産業だけが伸びていく。トヨタの莫大な利益の背景には輸出戻し税の存在があるのです。
|
|
|
|
|
|