北九州市若松区の市立小学校5年生だった永井匠君(当時11)が自殺したのは担任教諭(退職)の体罰が原因だとして、両親が市に損害賠償約8100万円の支払いを求めた訴訟の判決が1日、福岡地裁小倉支部であった。岡田健裁判長は担任の行為について「社会通念に照らして許容範囲を逸脱し、体罰に該当する。もっぱらこれが直接的な原因となって自殺したと認められる」として、約880万円の支払いを市に命じた。
また、両親が学校管理下の事故に共済金を支給する独立行政法人日本スポーツ振興センターに約2800万円の支払いを求めた訴訟の判決もあり、岡田裁判長は約2800万円の支払いを同センターに命じた。
判決によると、匠君の担任だった女性教諭は06年3月16日午後、匠君が振り回した新聞紙を丸めた棒が女子児童に当たったと聞き、「謝りなさい」と大声で注意。匠君は「謝ったっちゃ」と反論し、言い争いになった。担任は席に座っていた匠君の胸ぐらをつかんで体をゆすり、匠君は床に倒れ落ちた。
さらに担任は、「帰る」と言った匠君に「勝手に帰りなさい」と大声で言い放った。教室を飛び出した匠君は数分後に戻ったが、「何で戻ってきたんね」と担任に怒鳴られて再び飛び出した。担任はこのことを両親や校長に知らせなかった。同日午後4時50分ごろ、匠君が自宅で首をつっているのが見つかった。
判決は、匠君は5年生になってから約1年にわたり担任に頻繁にしかられていたと認定。「担任への不満を抱えていたところに、本件懲戒を受け、衝動的に自殺に及んだ」と指摘した。
市側は、匠君が自殺した当日の担任の行為について「トレーナーの胸元から肩付近をつかむようにして持ち、やや押すようにしただけで、教師に認められた懲戒権の行使の範囲内」と主張したが、判決は、同級生の証言などから許容される範囲を超えていると判断した。
判決後、父昭浩さん(48)と母和子さん(48)が記者会見した。和子さんは「天国の匠に『母さん、がんばったよ』と言ってあげたい」と涙をぬぐいながら話した。
最高裁は4月、熊本県天草市の小学校講師が小学2年男児の胸ぐらをつかみ、壁に押し当てた行為について「許される教育的指導の範囲内」として体罰とは認めない判決を出していた。今回の判決について原告側代理人の八尋八郎弁護士は「教師の懲戒権拡大の流れに一石を投じる判決」と評価した。
北九州市教育委員会は「厳しい判決と受け止めている。今後の対応は判決内容を検討のうえ決定したい」との談話を出した。(大畑滋生)