2006年3月、北九州市若松区の市立青葉小学校5年永井匠(たくみ)君=当時(11)=が自殺したのは担任女性教諭(54)=退職=による体罰などが原因として、両親が市に約8100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が1日、福岡地裁小倉支部であり、岡田健裁判長は両親の主張をほぼ全面的に認め、市に約880万円の支払いを命じた。
判決は「担任教諭が感情的に匠君の胸ぐらをつかんでゆすった行為は、社会通念が許す範囲を逸脱する体罰に当たり、違法行為と認められる。自殺の直接的な原因になった」と認定。市の「自殺当日、教諭はトレーナーの胸元から肩付近をつかんだが、強い肉体的苦痛を与えるものではなく、短時間だった。体罰に当たらない懲戒行為だった」との主張を退けた。
判決によると、女性教諭は担任になった05年4月以降、匠君への指導として、頭を殴ったり両耳を引っ張ったりする行為を繰り返した。06年3月16日、匠君が新聞紙を丸めた棒を振り回し女子児童に当たったと聞き、教室で「謝りなさい」と怒鳴り、胸ぐらをつかんで床に押し倒すなどした。
匠君は「帰る」と泣きながら教室を飛び出したが、教諭は「勝手に帰りなさい」と追いかけることもなくホームルームを始め、学校や匠君の両親に報告しなかった。匠君は同日夕、自宅で首をつって自殺した。
一方、判決は「(匠君が)衝動的な行動に陥りやすい児童であったことも自殺の要因の一つ」として、市が支払う損害賠償額を大きく減額。両親が、学校での事故などに災害共済給付金を支給する独立行政法人日本スポーツ振興センターに支払いを求めた給付金2800万円について、判決は全額を認めた。
同市教委の上村一臣・服務争訟担当課長は「厳しい判決と受け止めている。判決内容を早急に検討して対応したい」とのコメントを出した。
■「有形力は体罰」画期的
世取山(よとりやま)洋介・新潟大准教授(教育法)の話 殴るなどの有形力の行使が、身体的苦痛を伴わない場合でも、社会的通念に照らせば体罰に当たると判断した今回の判決は画期的だ。4月に最高裁判決が同様のケースを「体罰ではない」と判断した直後であり、大胆ともいえる。安易な力の行使は、子どもの人間の尊厳を侵害する、教育者として許されない行為だ。
=2009/10/02付 西日本新聞朝刊=