ある官僚OBから最近、こんな話を聞いた。93年夏、自民党が野党に転落して細川政権が誕生した直後のことだ。当時の連立与党幹部は霞が関の官庁に対し、こうしきりと伝えてきたそうだ。
「これまでとそんなに変わらないから安心しろ」
細川政権の最大の目的は衆院への小選挙区比例代表並立制導入など一連の政治改革。確かに他の政策は従来の自民党政権と同様、大蔵省(現財務省)を中心とする官僚頼みで、内政も外交もあまり変わらなかった。
「官主導から政治主導へ」をうたう鳩山政権との大きな違いはそこにある。政策決定の仕組みから根本的に変えるというのだから「安心しろ」という方が無理。だから、しばらく混乱するのは、むしろ当たり前の話なのだ。
私たち新聞やテレビは、ついつい、ドタバタぶりばかりを報じがちだが、多くの国民はそれもある程度覚悟したうえで、民主党に1票を投じたのではないだろうか。
ところが、今年度補正予算の見直し作業などを見ていると政権側が過剰に神経質になって混乱を隠そう、隠そうとしているように思える。そこが気になる。
政権交代への期待の一つは政策決定プロセスの透明化。つまり、政策がどのように決まっていくのか、その経過も国民にオープンにすることだったと思う。そう考えれば、各省の予算削減状況などを連日公表し、何が障害になって削れないのか、閣僚と官僚の交渉をつぶさに見せてしまった方が、私たち国民の政治に対する理解はかえって進むと思うのだ。
ドタバタはあっても鳩山内閣の支持率はまだ高い。もっと国民を信用することだ。
毎日新聞 2009年10月8日 0時10分
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