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発信箱:医療と偏見=磯崎由美(生活報道部)

 およそ2000人に1人。染色体やホルモンに何らかの問題があって、男女の区別が明確でない子が生まれてくる割合だ。原因などにより病気の種類は数十あるが、こうした疾患の総称を「性分化疾患」で統一することを日本小児内分泌学会が決めた。

 「両性具有」「半陰陽」などの呼称で、時に小説の題材になったり、国や時代によっては神聖な存在とも扱われた。だが、彼らは物語の中の住人ではない。この疾患は命が誕生する過程で起こりうる数々の疾患・障害の一部だ。

 にもかかわらず、性をタブー視する社会の中で周囲の目を恐れ、想像を絶する苦しみを抱え込んでいる人たちが決して少なくない。子どもの戸籍を変えるために誰も知らぬ土地に転居せざるを得なかった家族や、思春期に自分の疾患を知り、自ら命を絶ってしまった若者もいる。

 すぐに性別が分からない赤ちゃんが生まれた時、男女どちらを選び、どんなケアをすべきか。専門医でも判断を迷う例がある一方で、比較的決めやすい子が必要な検査すらされず、誤った判断や不適切な医療を受ける例が発覚している。その一因は、医師の間にも「隠すべき疾患」とみる意識があったためだ。名称もばらばらで、症例の共有が進まなかったという。

 学会の同じような取り組みで思い出すのは、日本精神神経学会が7年前「精神分裂病」を「統合失調症」に変えたことだ。その後の研究で治療やケアも進み、昔は鍵をかけた部屋に閉じこめられてきた人たちが今では地域に溶け込み、暮らしている。

 「性分化疾患」の名称も、医学界にとどまらずに広まっていくといい。医療には社会を変える力もある。

毎日新聞 2009年10月7日 0時02分

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