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社説

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イラク空輸実績―防衛にも透明性をもっと

 イラクでの航空自衛隊の空輸支援活動について、防衛省が詳細な実績データを明らかにした。イラク派遣差し止め訴訟の原告が出した情報公開請求に応じた。自民党政権時代、繰り返し請求しても非開示だったものが、一転して全面開示である。これも政権交代が持つ力のひとつだろう。

 空自は昨年12月までの4年9カ月、3機の輸送機を派遣し、クウェートを拠点にイラクへの輸送業務にあたった。当初は、イラク南部で活動する陸上自衛隊の支援が中心だったが、陸自撤収後はバグダッドや北部に飛行範囲を広げて、国連や多国籍軍部隊の輸送を助けてきた。

 開示されたデータは、週単位で活動内容をまとめたもので、運んだ物資や人の数、国籍、所属、兵員の階級、携行した銃器の種類や数量まで細かく書き込まれている。

 自民党政府は、この活動が人道復興支援のための輸送であることを強調した。だが、実態は米軍の輸送業務が主体ではないのか。戦争協力ではないのか。当時、野党はそう追及したが、政府は輸送した物資と人数の総量を示しただけで、詳細は「安全に支障がある」として公表を拒んできた。

 今回、開示された資料によると、空輸した人員の7割近くを米軍兵士が占めていた。小銃や拳銃を携行するケースも多かった。イラク特措法が禁じていた武器や弾薬の輸送はなかったかを含め、活動を検証する必要があろう。

 空自のイラク派遣については、名古屋高裁が昨年4月、「他国による武力行使と一体化し、憲法9条などに違反する」という判断を示したことも記憶に新しい。

 現地の部隊の安全を考えるのは当然だ。だが、これを口実にして自衛隊の運用、とりわけ外国での活動実態を国民の目から隠していいはずがない。

 北沢俊美・防衛相は「国防の機微に触れることは慎むべきだが、各国政府との協議で差し障りがないということなので開示した。情報はなるべく国民と共有すべきだ」と述べた。あまりに当たり前の発言だが、これまでの現実はそれに程遠かった。

 日米核密約をはじめ、自民党政権時代の不透明な政策運営は国民の政治不信を招いてきた。外交、安全保障の分野でも透明性を重視する新政権の姿勢は歓迎だ。

 自衛隊に対する文民統制の根幹は国会によるチェックである。だが、55年体制の下では、軍事機密が絡むとの理由で国会への情報提供は極めて限られ、この原則が空洞化していた。

 政権交代の時代に入った今、これを早急に改善してもらいたい。必要な情報は積極的に国会に提供し、政治家がチェックを利かせられる仕組みを考えるべきだ。

緊急雇用対策―新政権の手腕が問われる

 鳩山政権が緊急雇用対策づくりに乗り出した。雇用を守ることは、民主党が掲げてきた「生活第一」を貫く上でも重要である。

 完全失業率は8月の実績がわずかに改善して5.5%になったが、年末にかけて悪化が懸念されている。回復の兆しをみせてきた景気が「二番底」に落ち込まないよう、中小企業の資金繰り支援などとも並行して新政権にふさわしい危機対策をつくり、国民に示してほしい。

 世界同時不況を受けて自公政権が実施してきた対策の効果を見極め、次の手をどう繰り出すか。投資家も含めて、国内外が新政権の手腕に期待を込めて注視している。

 8月の失業率がやや改善した背景には、エコポイントやエコカー減税など政策効果による製品販売の回復があると見られる。だが、有効求人倍率は過去最悪のままで、先行指標である新規求人倍率はなかなか改善しない。

 労働者の所得環境は厳しく、夏の賞与は大幅に下落した。個人消費は低迷し、人員削減が小売業にも広まる時代となっている。

 民間経済の回復を待つだけでは雇用は守れないし、年末から来年にかけて政策効果が落ちれば、景気が「二番底」に向かう懸念もぬぐえない。

 9月の日銀短観(企業短期経済観測調査)は、2期連続で改善したが、景況判断はかなりの業種で6月時点の予想を下回った。設備投資計画も下方修正の基調が変わらない。

 個人も企業もいま苦しいばかりか、先行きへの不安がぬぐえず、消費や投資に臆病(おくびょう)になっているといえる。円高や金融株を中心とした急激な株価の下落など市場環境も悪化している。

 こうした状況では、雇用を整理していきたいという企業心理にはなかなか歯止めがかかりそうにない。失業率が今後再び悪化し6%を超える可能性も十分にある。

 当面の雇用を支えると同時に、中長期的に社会的安全網の立て直しと新たな成長戦略の見取り図を示しつつ、それらを補正予算の見直しや来年度予算編成に生かす工夫が鳩山政権に求められているのだ。

 まずは企業に休業補償を出して解雇を避ける雇用調整助成金の対象を広げ、失業の増加を抑えるべきだ。失業者への職業訓練や再就職、生活支援も強化しなくてはならない。

 職業訓練は実際に就職に結びつくよう、経済界の声も聞きながら具体策を練る必要がある。

 雇用の安定なしに消費も景気も回復しない。昨年暮れに「派遣村」を生んだような事態に陥らせず、新卒の若者たちが長い就職氷河期にはまりこむのを避けることも重要だ。雇用悪化を阻止する決意を政策で示してほしい。

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