「路上生活者の6割が精神疾患を抱えている」。池袋で炊き出しやパトロールを続けるNPOによる実態調査の結果を記事にしたところ、支援者らから賛否両論、複雑な反応があった。
昨冬の「派遣村」報道では、普通に働いてきた派遣労働者が解雇され住む場所を失う姿がクローズアップされ、「人ごとではない」という認識が広がった。「路上生活者=社会不適応者」という偏見による行政の無作為や世論の無関心に直面してきた支援者にとっても、転機だった。「それだけに、6割という数字が独り歩きしてまた偏見が広がるのが怖い」。ある支援者はそう言った。
神経症や軽い障害で組織になじめず、真っ先に雇用調整の標的になる人がいる。解雇と就職難でうつ病を患う人がいる。誰も好んで路上に飛び出しはしない。路上生活の厳しさで、さらに心と体をむしばまれる人がいる。その事実が「社会不適応者」という言葉でくくられる材料になるとしたら、あまりにも悲しい。
もう10月。雇用回復の見通しがつかないまま、路上の寒さが身に染みる季節がまたやってくる。【市川明代】
毎日新聞 2009年10月6日 地方版