医薬品の副作用などに関する国の健康被害救済制度について、運営主体の独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA)が認知度を初めて調査したところ、制度を「知っている」と答えた医療従事者が37%にとどまった。約半数は、書類を作るのが面倒などの理由で、被害者に申請を勧めようと考えていないことも判明。医療者側の認識や説明の不足で、救済されるはずの被害が放置されている可能性が浮かんだ。【清水健二】
健康被害救済制度は、適切に薬を使用したのに入院以上の副作用が出た場合、製薬会社や医療機関に過失がなくても、製薬会社の拠出金から一定額(死亡一時金の場合は約713万円)が支払われる仕組み。80年にスタートし、04年には輸血に伴う感染症なども対象に加わった。08年度には690人の被害に計約18億円が給付された。
PMDAは7~8月、インターネットで一般国民3119人、医療従事者(医師、薬剤師、看護師ら)3438人に制度の認識を調査。「知っている」とした医療従事者は37%で、43%は「名前は聞いたことがある」にとどまり、20%は「知らない」と答えた。薬剤師の7割近くが制度を知っていた半面、医師は36%、看護師は12%しか知らなかった。制度の運営主体も41%が厚生労働省だと誤認していた。
給付を受けるには、診断書作成など医師の協力が必要だが「制度利用を患者に勧めたい」とした医療従事者は半数以下の49%。勧めたくない理由は▽書類作成が複雑・面倒▽時間を取られる▽不支給になると患者から責任を問われる--などが多かった。一般国民は84%が「副作用被害に遭ったら利用したい」と答えていた。
PMDAは「医師や看護師の教育課程に救済制度が入っていないことが、医療従事者に十分に浸透していない原因ではないか」とみている。
全国薬害被害者団体連絡協議会世話人で、PMDA救済業務委員の栗原敦さんは「患者が申請するかどうかは、医療機関の対応に左右される。医療機関は多忙な医師に任せず、薬剤師らも活用して組織的に対応してほしい」と指摘している。
毎日新聞 2009年10月6日 東京夕刊