どれだけ貧窮しても住む場所がなければ生活保護が受給できず、就職活動もできない。そこで、生活困窮者に無料か低額で居室を提供し、自立を促す民間施設が登場するようになった。社会福祉法で第2種社会福祉事業に位置づけられ、特別な資格がない任意団体や個人でも開設できる。08年現在、全国415施設に約1万3000人が入所している。
首都圏や愛知県内で18施設を運営する任意団体は入所者が毎月受給する生活保護費12万円から9万円の利用料を集め、食材費や職員の人件費などに充てているが、これらの経費とは別に支出全体の約3割が使途不明の「業務委託料」として計上されている。18施設で毎年計3億~4億円にも上るとみられる。困窮者の自立を促すための生活保護費を団体側が別の目的で流用していたのだとすれば重大な問題だ。しかし、任意団体のため全体の収支を都道府県などに報告する義務はなく、どの自治体も実態把握ができていない。
千葉市で路上生活者にアパートを提供している別の任意団体は、入所者に生活保護を申請させ、預金通帳を管理して保護費の大半を徴収していた。この任意団体は市に届け出すらしていなかった。
また、奈良県大和郡山市の山本病院は生活保護受給者に心臓カテーテル手術をしたように装って診療報酬を不正受給したとして、理事長らが逮捕、起訴された。入院患者全体の約6割が生活保護受給者で、不正受給は05~07年で830万円に上るという。生活保護を受けている人の医療費は全額が公費(医療扶助)で負担され、病院にとっては回収できない心配がない。同病院は生活保護者向けのマンションに出向いて入院を勧誘していたともいう。
8月の完全失業率は5・5%、完全失業者数は361万人で前年同月に比べて89万人も増えた。生活保護を受給しているのは160万世帯にも上り、07年度の総支給額は2兆6174億円。この巨額な公費に目を付け、生活保護のピンハネと指摘されてもおかしくない悪質なケースが目立っている。病院が受給者を「横取り」して架空手術で生活保護費を搾取するなど言語道断である。
アパートなどに入居するには保証人や敷金・礼金が必要で、福祉事務所が職や住居を失った人に生活保護の支給を認める際、無料低額宿泊所を紹介することが多い。厚生労働省は本格的な実態調査に乗り出しているが、自治体が業者に路上生活者などの生活保護手続きを丸投げし、運営には口を出さないというもたれ合いも指摘される。届け出制から許可制にして監視を強めるなど抜本的な対策が必要だ。
毎日新聞 2009年10月5日 0時09分