「休みは月2日、1日12時間労働の勤務をいつまで続けられるのか。体がボロボロになる前に身の丈に合った診療をしよう」。安曇野赤十字病院の産婦人科医だった伊藤高太郎さん(47)は06年に辞職、市内で出産を扱わない産婦人科医院を開業した。現在、同病院の産婦人科医は非常勤1人となり、安曇野市内で出産を扱う病院は穂高病院だけになった。伊藤さんは「病院には申し訳なかったが、続けていたら過労で医療事故が起こる恐れもあった」と振り返る。
安曇野市では02年以降、年に平均800人の乳児が誕生している。だが07年の市内での出産は約3割だけで、約7割は市外だ。市は松本、塩尻など9市町村の施設が共同で妊娠から出産までをカバーする「出産・子育て安心ネットワーク」を構築。市内の健診医療機関4施設、出産病院1施設も参加し、同ネットを利用した出産が主流になっている。
国立社会保障・人口問題研究所によると、市内の0~4歳児は25年後に約3割減少。一方、85歳以上は約2倍になると試算する。医師不足など出産環境の悪化で、市の将来を担う子供の減少が懸念されている。
一方、伊藤さんは「医師数の増加は出産環境を改善するが、子供が増える直接の要因にはならない」とも指摘する。若い世代が2人目、3人目の出産をためらうのは、子育てや教育に「経済的不安が大きい」と考えているからという。
現実に、安曇野市の保育料が「周辺市町村に比べて高い」との声がある。前年の世帯所得税が41万3000円以上の市内の世帯で、3歳未満児の保育料は月7万円。一方、松本市は同5万4000円、塩尻市も同5万6000円だ。また安曇野市では兄弟2人とも園児の場合のみ保育料が減額されるが、松本・塩尻両市は、兄弟の片方が園児ならその児童の保育料を割り引きする独自の制度もある。
子育て環境の充実をめぐって、候補予定者は「義務教育期間の医療費無料化」(宮沢宗弘氏)、「第3子の育児費ゼロ」(藤森康友氏)、「中学生までの医療費の無料化」(古幡開太郎氏)と主張を繰り広げている。【渡辺諒】
毎日新聞 2009年10月3日 地方版