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東西で開発進む 「高層建築」支える技術…「剛」の耐震「柔」の制振

 東西で日本一の建築物の開発が進んでいる。横浜ランドマークタワーが持つビルの高さ記録(296メートル)を21年ぶりに塗り替える300メートルの阿部野橋ターミナルビル(大阪市阿倍野区)と、東京タワーの自立式鉄塔記録(333メートル)を53年を経て一気に倍近く更新する610メートルの東京スカイツリー(東京都墨田区)だ。高さへの挑戦はどこまで続くのか。

(萩原隆史)

揺れへの備え

 阿部野橋ターミナルビルは、近畿日本鉄道が大阪阿部野橋駅に建設し、2014年春の完成予定。59階建てで百貨店やオフィス、ホテルが入る。東京スカイツリーは東武タワースカイツリーが昨年7月に着工、開業は12年春の予定だ。最上部には地上デジタル放送用アンテナが立ち、350メートルと450メートルの2か所に展望台が置かれる。

 超高層ビルの設計で最も重要なのが、強い揺れへの備えだ。日本は地震や台風が多いため、諸外国に比べてハードルが高い。

 近鉄によると、阿部野ビルの設計の基本は、「剛」の耐震構造と「柔」の制振構造の組み合わせという。

 耐震構造のメーンは、要所6か所に配置した鉄骨造筋交い。フロア全体にくまなく筋交いを並べた階を作ったり、背骨のように縦に組み込んだりして、地震時の建物の変形を抑える。

 制振構造には5種類の最新技術を導入。高層階には、吊り型と床に取り付けた倒立型の2種類の巨大な振り子を設置し、建物の振動と逆の振動を起こして強風時の揺れを相殺する。中層階以下には振動エネルギーを吸収する特殊な壁やオイルダンパーなどを多数組み込む。近鉄は「一つひとつは既存の技術だが、これほど多くを同時に取り入れた建物はないだろう」と胸を張る。

 一方、スカイツリーの最大の特徴は、地震に強い五重塔をモデルにした「心柱制振」。直径8メートルの円筒形階段室(心柱)が中心部を垂直に貫き、その外側を本体鉄骨塔が覆う構造だ。

 地上125メートルまでは心柱と鉄骨塔を鋼材でがっちりと固定するが、それ以上の部分は心柱と鉄骨塔を構造的に切り離したうえで、計168基のオイルダンパーで結合。地震時に心柱と鉄骨塔が互いにタイミングをずらしながら揺れ、振動エネルギーを相殺する。振り子制振のおもりの役目を心柱が担う世界初のユニークな構造で、地震時に働く力を最大40%減らせるという。

 さらに、地下の(くい)を壁状にしてスパイクを付け、大樹の根のように放射状に張り巡らせることで、強い揺れで生じる引き抜き力に耐えるように設計した。

 ともに東海地震や東南海・南海地震といったマグニチュード(M)8級の巨大地震でも倒壊せず、修復可能な被害にとどまるといい、近鉄は「M7級の阪神大震災クラスなら軽微な被害で済む強さ」と説明する。

世界一は可能か

 世界を見渡せば、阿部野ビルさえ小さく見えるビルもある。現在の世界一は508メートルの「台北101」(台湾)だが、アラブ首長国連邦(UAE)で建設中の「ブルジュ・ドバイ」は818メートル。サウジアラビアやクウェートなどではそれ以上のビルを計画中で、世界一の高さ競争が1キロ・メートル台になる日もそう遠くなさそうだ。

 ただ、日本では航空法の高さ制限が壁になる。高さ制限は空港の24キロ先まで及び、大阪空港に近い大阪・梅田周辺では200メートル弱までしか建設できない。阿部野ビルの建設予定地も以前は290メートルの高さ制限があり、横浜ランドマークタワーを超える日本一のビル建設はそもそも無理だった。07年2月の制限区域見直しで除外されたことを機に計画が進んだ。

 日本建築センターの大塚紀明・評定部担当部長は、「高さ制限がなくても、需要や経済性、安全性などを考慮すれば、今の日本に世界一を競うようなビルを建設する理由は見当たらない。しかし、海外の超高層ビル建設では日本のゼネコンが活躍しており、高い技術力は証明済み」と強調する。

2009年9月28日  読売新聞)
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