伸び切った輪ゴムの中にいる余生 広島・三次市 錦武志(9月24日掲載)
老老で姉妹みたいになる母娘(ははこ) 大阪・都島区 吉田エミ子
今日もまた医者を育てに医者通い 大阪・門真市 和泉雄幸
里帰りした時だけは子にかえり 奈良・生駒市 チャーブ、カホチチ
何十年過ぎても青春ビートルズ 京都・福知山市 中嶋和男
投票所なつかしの道幼稚園 大阪狭山市 池もろこ
誰にでも笑顔をみせていやがられ 東大阪市 塚本皓一
多弁して無言に劣ることを知る 奈良・桜井市 福田良清
辛(つら)い日も過ぎれば同じ一日か 大阪・城東区 塩見悦子
母旅路家は野となり山となり 兵庫・姫路市 くみこ
適当に忘れてくれる人でいい 奈良・宇陀市 牧野文子
==============
心のありようは表現しにくい。そこへ一つの物を持ってくる。物に託せば、心の中のもやもやしたものばかりか、人生観や死生観だって表現できる。以前、事物をして語らしめよ、と書いたが、「人プラス物」の組み合わせは表現力を一段とアップしてくれる。
9月の月間大賞「伸び切った輪ゴムの中にいる余生」は、輪ゴムが秀逸だ。しかも伸び切ったという形容がいい。表現しにくい余生が実感できて、そうだなあとうなずけた。
この句にぼくは自分がはいているパンツ(下着)のゴムひもを思い浮かべた。洗濯して使い古しているのが多く、大半がゆるい。もともとやせているので、ずれ落ちそうになるものもある。といって新しいパンツは苦手だ。ゴムひもがきつくて、はいていてしんどい。ゆるくて、そう、伸び切ったゴムひものほうが体になじむ、と思いはじめて何年もたつ。
残された人生はそのゆるいゴムひもの中にある、と思いつつ、先の句を味わった。
9月は7歳の子の作品にも感心した。南あわじ市の「ピカチュウ」さんで、「じいちゃんのあくびに何かほっとする」と詠む。生活情景が浮かんでくるようだ。じいちゃん、健康でいてくださいよ。(専門編集委員・近藤勝重)
==============
はがきで未発表3句まで。住所、氏名、電話番号を明記し〒530-8251(住所不要)毎日新聞「健康川柳」係へ。MBSラジオ番組「しあわせの五・七・五」(土曜午前5時15~45分)への秀句も掲載します。
毎日新聞 2009年10月1日 大阪朝刊
10月2日 | 「明日休み!」この瞬間が最高よ |
10月1日 | 肩で風切ったあいつも腰を曲げ |
9月の月間賞 伸び切った輪ゴムの中にいる余生 | |
9月30日 | じいちゃんのあくびに何かほっとする |
9月29日 | 夫には「ハイ」と素直にまだいえぬ |
9月28日 | 今日生きた証のような仕舞風呂 |
9月27日 | ウソでしょう!老母と同年森光子 |
9月26日 | ばあちゃんは孫にほめられ涙ぐむ |
9月25日 | 松茸は待つだけだけと妻笑い |
9月24日 | 伸び切った輪ゴムの中にいる余生 |
9月23日 | にこにこと返事してるが聞いてない |
9月22日 | 嫌だった白髪も今は大切に |
9月21日 | たまにはと言っていつでも食べる母 |
9月20日 | 鈴つけて楽しくなった車椅子 |
9月19日 | プロポーズ思い出させる虫の声 |
9月18日 | 何事もなかったように夜が明ける |
9月16日 | もう知らん言ってるけれど気にしてる |
9月15日 | 歳とると老いることとは違うよう |
9月14日 | しあわせな時が今だと気づかない |
9月13日 | 久しぶりジャンプしてみる水溜(たま)り |
9月12日 | いい人はいい人つれて来てくれる |
9月11日 | 穂が揺れる行っておいでとゆるやかに |
9月10日 | 旅終えて我が家の茶漬け疲れ取る |
9月9日 | リハビリで夫婦のスキンシップ増え |
9月8日 | 冷戦の親善大使孫が来た |
9月7日 | 退屈は頑張り生きた褒美だと |
9月6日 | 人に言え自分に言えぬ「気にするな」 |
9月5日 | 初孫のほっぺにキッス乳の味 |
9月4日 | 黙ってる方が理解を得ることも |
9月3日 | 物言わぬ花に一番励まされ |
8月の月間賞 「有難う」「ごめんね」他人にいえるのに |