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社説

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1票の格差―来夏に向け参院は動け

 一昨年の参院選では自民党が大敗して民主党が第1党に躍進した。政権交代の前触れとなった選挙だが、一票の格差は最大4.86倍もあった。

 著しい不平等の下で行われたこの選挙は違憲、無効だとして東京都と神奈川県の有権者が起こした裁判で、最高裁は原告たちの訴えを退けた。

 合憲の判断だとはいえ注目されたのは、最高裁が「投票価値の平等という観点からは、なお大きな不平等がある。国会は速やかに適切な検討を」と求めたことだ。

 さらに「現行の選挙制度を維持する限り、定数を振り替えるだけでは格差の縮小は困難であり、選挙制度自体の仕組みの見直しが必要」とまで踏み込んだ。国会はこれを重く受け止めなければならない。

 15人の裁判官の意見は、合憲10と違憲5に分かれた。

 ひとつ前の04年参院選では、一票の格差は最大5.13倍だった。参院が06年に「4増4減」の最小限の調整をしたことで、格差が縮小した。多数意見は、それから07年の選挙までの短期間にさらなる見直しをするのは極めて困難だったと国会の事情をくんだ。

 これに対し、反対意見は「投票価値が平等といえる最大2倍未満の格差を著しく逸脱している」「抜本改正を求めた最高裁判決から10年たっても、それがなされないまま行われたこの選挙は違憲」と厳しく断じている。

 微調整でお茶を濁してきた国会に対し、最高裁は選挙を違憲、無効とはしないまでも、その怠慢を厳しく指弾したといえるだろう。

 まず参院が、抜本改正に真剣に取り組まねばならない。でなければ、さまざまな政治的思惑から避けているのでは、と疑われても仕方ない。

 次の参院選は来年夏に迫っている。時間はあまりない。とくに政権党になった民主党は、政策集に07年選挙を例に参院選の格差是正を掲げており、責任は大きい。

 参院は3年ごとに半数を改選する。このため最低でも1選挙区の定数は2となる。総定数を増やさずに都道府県単位で選挙区を割り振っている限り、どうしても相当の格差が生じてしまう。複数の県を合区するなど根本的な発想の転換が必要だ。

 8月の総選挙までの「衆参ねじれ国会」で、与野党が調整や合意づくりよりも政争に走る場面が繰り返された。参院は「再考の府」と呼ばれながら、衆院のコピーのような性格が指摘されてきた。

 選挙制度についても、衆院と似た選挙区と比例代表の組み合わせでいいかという問題も突きつけられている。

 とはいえ、まずは一票の格差の改善に取り組むことだ。それなしでは参院の権威が泣く。

マンガ・アニメ―新発想で大胆な振興策を

 行く手をはばまれ、絶体絶命のピンチ。さあ、どうする――。

 マンガやアニメに対する国の振興策がいま、冒険アニメの主人公のような窮地に立たされている。

 資料収集や展示、情報発信の場として計画された「国立メディア芸術総合センター」が、補正予算の見直しで建設が中止される。

 総選挙では麻生政権のハコもの政策の是非が争点になり、鳩山政権が断を下した。だが国際的にも注目されている芸術分野をどう振興するかという肝心の政策論争はなかった。文化庁がまとめたセンターの基本計画も急ごしらえだった。

 だが、建設中止で振興策そのものが立ち往生していいのだろうか。

 いうまでもなくマンガやアニメは、人々の精神や時代を映す重要な芸術・表現ジャンルだ。幅広い鑑賞者に感動や楽しみを与え、研究対象としても注目されている。出版や映像産業の大きな柱であり、輸出も活発だ。海外へ広く深く浸透していて、日本への関心や好感を高めるのに大きく寄与し、観光資源としても有望視される。

 とはいえ、弱さも抱えている。

 資料や記録を保存する総合的な仕組みがなく、長い間、愛好家ら個人の熱意だけが頼りだった。小規模の出版社やプロダクションが多く、雑誌や本、映像など貴重な記録が失われたり、散逸したりしがちでもある。

 意欲のある若い担い手を育てる方策も幅広く考えなくてはならない。

 海外での海賊版やネットでの違法配信が横行し、作り手らの権利が大きく損なわれているのも深刻だ。

 こうした多様な課題を洗い出し、政府が直接やらねばならないこと、既存施設に託して支援すべきこと、他の機関に任せた方がいいことを整理し、白い紙に絵を描くようなダイナミックな発想で取り組む必要がある。

 国立近代美術館でアニメのセル画を保存するなどの話も出ているが、個別の代替案を並べるだけでは総合的な芸術振興の姿は見えてこない。施設整備に偏りがちな文化行政を中身優先に変える新しい発想が必要だ。

 例えば、各地の美術館や記念館などの収蔵品を横に結んで共通データベースを作ったり、いまある美術館を原画などを収集する拠点としたり、どこかの研究機関を海外への情報発信の核と位置づけたり、という具合に。

 様々な施設の独自の活動を拡充しながら有機的に結びつけ、効率良く総合的な機能を生む。そんな分散型「ナショナルセンター」といった新しい姿を構想することも可能だろう。

 官民、省庁の枠を超えて、文化を守り育てる新しい道を考える。メディア芸術をその先行モデルにできないか。知恵と力を集めて。

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