新型インフルエンザ対策、緊急雇用対策など課題山積の厚生労働省だが、「ミスター年金」こと長妻昭厚労相の手腕がとりわけ注目されるのは年金問題である。
まず、発足まで3カ月に迫った日本年金機構をどうするか。不祥事が相次いだ社会保険庁を解体し、来年1月に非公務員組織として年金機構は発足することになっているが、民主党はこれに反対し、社保庁と国税庁を統合して「歳入庁」を創設することを公約に掲げた。ただ、職員採用は進んでおり、すでに管理職300人を含む1078人に内定通知を出した。公約通り機構設立をやめた場合、内定者はどうなるのか。
長妻厚労相は「内定者には配慮する」と言明するが、もし機構設立を中止するのであれば、1078人は国家公務員として採用するということなのか。一方、年金記録ののぞき見などで懲戒処分を受けたことのある職員約850人は機構に移さず、他省庁などが受け入れなければ分限処分(事実上の首切り)にされる。首切りをしなければ、内定者と合わせて人件費は膨れあがる。
いったんは年金機構を設立するしかないように思えるが、看板政策の公約を就任早々に変更できるか。また、非公務員組織にしたものを再び歳入庁という官庁に統合させられるのか。「まだ決めていない」と言う長妻厚労相だが、どのような裁決を下すのか注目される。
いずれにせよ「消えた年金」など年金記録問題は当初の2年間で集中して解決するという。旧式紙台帳の記録の照合作業は7000人投じても10年かかるといわれるが、これを2年でやるとなれば5倍の人手が必要だ。速やかな救済を図るため、厚労相は改ざんや消えた状況が一定の類型に該当する人からの訂正の申し立ては一括して認める法案の検討を始めた。ただ、救済基準を緩めると支払っていない人にまで年金を給付することになりかねない。公平性への信頼を保ちつつ迅速な救済をどう実現するのかが問われる。
これだけでも容易には進みそうにないが、本丸は制度改革である。民主党案は、年金制度を一元化し、すべての人が「所得が同じなら同じ保険料を負担」し、納めた保険料を基に受給額を計算する「所得比例年金」、消費税を財源とする月額7万円の「最低保障年金」の創設が柱だ。スウェーデンの年金改革をモデルにしたといわれるが、国民負担率が高い上に、個人所得の把握が厳格で、女性の8割が家庭外の仕事で収入を得ているスウェーデンとは土台が大きく違う。改革案を実現するためには、今すぐ膨大な作業と議論に取りかからなければならないだろう。
毎日新聞 2009年9月30日 0時07分