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【暮らし】

広がるアルコール依存症(下) 飲酒運転も典型的な症状

2009年9月30日

 今日まで秋の交通安全週間。飲酒運転撲滅は交通安全対策の最重要課題だが、責任ある立場の警察官や公務員の飲酒運転も後を絶たない。背景にアルコール依存症の存在が浮かび上がっている。

 「飲んで運転するのが当たり前だった」

 依存症で四年前に入院した東京都内の自営業男性(48)はこう振り返る。

 三十代前半で親に仕事を任され、「仕事の不安からうつの症状が出て、飲むと心がほっとして、ずっと飲むようになった」。営業は車で回るのに、朝から飲んだ。「酒に強いし、運転に自信があった。絶対に事故を起こしてはだめだと思ったが、酒をやめようとは思わなかった」

 国立病院機構久里浜アルコール症センター(神奈川県横須賀市)に通う患者らでつくる自助グループ「銀鈴会」の九月のある例会で、飲酒運転問題が話題になった。竹林義男代表が「飲酒運転防止は厳罰化だけではだめ。依存症であればまた運転してしまう。専門の病院にかかることが大事だ」と語ると参加者たちもうなずいた。

 同センターの松下幸生・精神科診療部長は「飲酒運転をやめられず、危ないことと考えないのが依存症」と説明する。飲酒運転はその症状なのだ。

 飲酒運転と依存症の関連は、同センターと神奈川県警の共同調査(二〇〇七年一月〜〇八年三月)で浮き彫りになった。調査対象は免許取り消し処分者講習の受講者。飲酒運転検挙歴がある男性約五百人のうち、「依存症の疑いがある人」は39・5%、検挙歴二回以上の男性約百八十人では43・8%になった。

 元福岡市職員が三年前に起こした三児死亡飲酒運転事故を受け、地元では飲酒運転撲滅に取り組んでいるのに今夏、厳しい倫理を求められる警察官や県職員が飲酒運転事故を起こした。警察官の飲酒運転は今年、各地で相次いでいる。

 飲酒運転による悲惨な事故が続き、対策に厳罰化が進んだ。だが、依存症による飲酒運転の歯止めには、その対策も必要だ。警察庁は今月、警察官の飲酒運転には依存症を疑うケースがあったとして、警察職員への専門医受診の指導徹底や車通勤禁止などの対策を講じるよう警視庁や道府県警に通達した。

 依存症の予防・啓発に取り組むNPO法人「アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)」の今成知美代表は警察庁の対策を歓迎しつつも、「酒に強く、多く飲めることをよしとする地域、組織の風土がある。この土壌を変えないと、飲酒運転者は次々に出てくる」と指摘する。

 現在でも依存症について、本人も社会も「個人の意志の問題」など偏見・誤解が多い。習慣的な飲酒から酒量が増え、依存症になることもあまり理解されていない。今成代表は「飲酒問題の教育、特に刑務所に入らない飲酒運転検挙者が教育・治療を受ける機会が少なく、見直す必要がある」と訴える。

 依存症は適切な治療と断酒を続ければ回復する。患者らでつくるNPO法人「東京断酒新生会」の八木真事務局長は「酒での問題でお悩みの方、ご家族は相談してほしい」と呼び掛けている。

 各団体の連絡先は、銀鈴会=電080(1256)8690、ASK=電03(3249)2551、東京断酒新生会=電03(5624)0318。

 

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