前述したように、EUは1990年を基準にすると、排出量削減余地が相当あった。これに対し、2度の石油ショックや円高不況に遭遇した日本は、1980年代から製鉄業を筆頭に血の滲むような省エネ化を進め、タオルを絞り切ったような状態だった。
GDP当たりの二酸化炭素排出量は日本が最も少ない
GDP当たりの二酸化炭素排出量(2004年時点)をみても、日本を1とすれば、EUは1.1、米国1.8、インド7.3、中国8.1、ロシア9.4程度で、日本のエネルギー効率が最も高い。すなわちGDP比でみれば、日本は温暖化防止策が非常に進んでいる国なのだ。日本政府はこのことを国際的な場でもっと主張してもいいのではないか?
鳩山首相は25%削減を高らかに宣言したが、逆に9%増えてしまった排出量をどういう手段でそれぞれいくらずつ削減するのか、その具体策をまだ明らかにしていない。
一方、EUは1990年比で20%削減、他国が厳しい目標を約束するなら、さらに踏み込んで30%まで削減するとしている。しかし、日本の1990年比25%削減が、2005年比で30%削減になるのに対し、EUが仮に1990年比30%削減するとしても、2005年比では24%の削減にすぎない。
削減目標をきちんと計算して出しているEU
しかもEUはまた「魔法の杖」を持っているのだ。それは東欧諸国のEU加盟である。2004年から2007年にかけて、チェコ、エストニア、ルーマニアなど12カ国が加わり、EUは15カ国から27カ国に拡大した。
これら東欧諸国のエネルギー効率は、EU平均値の半分から4分の1程度であり、これらの国々が省エネに取り組めば、旧東ドイツの例のように、排出量は大幅に削減できる。そもそも東欧に限らず、欧州の工場設備は老朽化しているものが多く、やろうと思えば10%くらいはすぐに排出量を削減できると言われている。去る5月に出された日本エネルギー経済研究所のレポートも、EUの1990年比20%削減は比較的容易に達成できる状況にあると述べている。
EUは削減目標を表明するとき、何によってどれくらい削減できるか、きちんと計算しているのである。鳩山首相はきちんと計算して25%削減と言ったのだろうか? 単純計算して6%削減のために8000億円が必要であれば、25%のためには、3兆3000億円が必要になる。
排出権価格が上がれば支払い額はもっと増えるし、第2約束期間では「ホットエアー」(経済活動停滞のために排出量が減り、それを排出権として売却すること)が認められない可能性があり、そうなると排出権の供給量が足りなくて買えないという事態もありうる。