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2009年9月29日(火)

25%削減で日本はまた欧米の手玉に?

鳩山首相国連演説への大いなる疑問

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 民主党のマニフェストでは、(1)キャップ・アンド・トレード方式による国内排出量取引市場の創設、(2)地球温暖化対策税の導入が挙げられている。

 しかし、(1)は、欧州の例でも明らかなように、どの企業(施設)にいくらのキャップ(排出量)を割り当てるのが公平かの大激論が起き、容易には制度を作ることができない。また、制度を作ったとしても、それで排出量が減るわけではなく、結局のところ、排出量削減を個々の企業の努力に頼ることになり、企業にとっての困難は付きまとう。

 また(2)は、既存の財源の代替なのか、新しい財源なのかも明らかでなく、詳細がまったくわからない。そもそも排出権購入のために8000億円程度が国民負担になっており、それ以外にも、政府予算の中から毎年1兆2000億円程度(平成20年度は1兆2000億円、同21年度は1兆1764億円)が、京都議定書の目標達成のための予算として経済産業省、環境省、農林水産省などに配分されているのである。

 国民がすでにこれだけの金を負担しているのだから、新たな税金を考えるより、毎年1兆円以上使っているのになぜ排出量が削減できないのか、予算に相当な無駄があるのではないかを見直すべきではないか?

12月の「COP15」で期待される鳩山首相の交渉力

 筆者は、国内排出量取引市場創設も結構だが、原子力発電の推進や二酸化炭素の地中貯留に力を注がないと、日本の温室効果ガス排出量は容易に減らないと考える。特に、地中貯留はLNGなどから分離した二酸化炭素を「キャップロック(岩の蓋)」がある地層に閉じ込める技術で、一度に大量の二酸化炭素を封じ込めることができる。

 排出権価格が下落することを嫌うブラジルなどが反対しているため、三菱重工などが国連CDM理事会へ提出した地中貯留の方法論の提案がペンディングになっている。これをCDM(clean development mechanism=京都議定書で認められた排出権削減事業)として認めれば、日本の排出量削減目標達成に大きく貢献するはずだ。

 先進諸国はこぞって地中貯留に前向きであり、中国も最近支持に転じた。去る5月にバルセロナで開催されたCarbon Expo(世界最大の排出権ビジネス見本市)でも、地中貯留は温室効果ガス削減に不可欠という意見が多かった。

 京都議定書の第2約束期間についての交渉の山場は、12月にデンマークのコペンハーゲンで開催されるCOP15(第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議)である。鳩山首相には、再び日本だけが過度な負担を負わされることのないよう、EUの手の内などをしっかり見極めた上で交渉してもらいたい。

 幸い今回は京都のときのように面子にこだわる必要はない。また先の首相の国連での演説でも、日本の25%削減目標は、すべての主要国による意欲的な目標の合意が前提であるとなっている。

 また、具体的にどうやって25%を削減するつもりなのか、COP15に臨む前に、早急に明らかにしてもらいたい。我々国民はその実効性を検証する義務がある。




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著者プロフィール

黒木 亮 (くろき・りょう)

黒木 亮

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23 年あまり勤務して作家に。主な作品に『巨大投資銀行』『トップ・レフト』『エネルギー』『青い蜃気楼―小説エンロン』『アジアの隼』など。大学時代は箱根駅伝に2度出場し、20キロメートルで道路北海道記録を塗り替えた。ランナーとしての半生は自伝的長編『冬の喝采』に、ほぼノンフィクションの形で綴られている。近著に『リストラ屋』。英国在住。


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