紙飛行機を愛してやまない長松康男さん。「作り方、飛ばし方、調整の仕方など、とても奥が深い」と話す
多彩なデザイン。シャープなものから愛らしいものまでさまざまだ
部屋に入った瞬間、息をのんだ。壁を覆う紙飛行機の数々。これほど多彩なデザインがあるとは-。
紙飛行機デザイナー、長松康男さん(59)=福岡県小郡市。九州を代表する専門家で数々の名機を世に送り出してきた。
「グッドデザイン賞」を何度も受賞した工業デザイナーであり、ハンググライダーのパイロットの経験もある。多彩な顔を持つ男は、こう言う。「紙飛行機が空を舞うのは、わずかな時間。けれどその間、自分が空に吸い込まれたような感動に包まれる」
紙飛行機との出合いは、幼稚園のとき。雑誌の付録の切り紙飛行機を作って、飛ばしてみた。すると「なぜかくるりと手元に戻ってきた」。
なぜ、どうして? 紙飛行機に魅せられ、紙を手当たり次第切り抜き始めた。「雑誌や本、アルバムの写真まで。さすがに親にあきれられた」と笑う。工作や絵を描くことが大好きで、高校では美術部に。九州産業大学では工業デザインを専攻。九州松下電器(当時)に入社し工業デザイナーとして華々しく活躍した。
26歳のとき、一つ目の転機が訪れた。出張先の大阪で、ハンググライダーを紹介する雑誌を読み、「熊本で教室が開かれていると書いてあった。すぐに申し込みました」。以来11年間、大空を存分に舞った。
次の転機は37歳のとき。科学雑誌「オムニ」で、紙飛行機のコンテストがあると知った。ハンググライダーを通して学んだ知識、工業デザイナーとしてのセンス。応募し、本格的に紙飛行機に取り組み始めた。
現在は独立し、福岡県小郡市でデザイン事務所と、紙飛行機専門のデザイン工房を開く。
デザインの特徴は、シャープさと機能性だ。
戦闘機のような細身の形状、空気抵抗などを計算した翼の角度。「絵を表だけでなく、裏にも描いているのが僕のこだわり。飛ばしているとき、下から眺めるでしょう」。あらゆる角度から見て美しい機体に。工業デザイナーの真骨頂だ。
紙飛行機は、「ものづくり力」に通じるとも感じている。正確に切る、折る…。単純に見えて、怠れば機体は曲がり失速する。
「工作の楽しさ、工夫する喜び。かつて日本人が得意としていた、ものづくりの世界観が紙飛行機には詰まっていると思うんです。だからこそ、子どもたちに親しんでもらいたい。たった1枚の紙が、どう変化するか。こんなロマンチックな世界、ないでしょう?」。紙飛行機教室の開催にも力を注いでいる。
私も作ってみた。広場に行き機体を空に放つ。紙飛行機を通して心も開放される-。風や光を五感で受けとめながら、そう感じた。
(簑原亜佐美)
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▼ながまつ・やすお 1950年、福岡県生まれ。現在、同県小郡市で工業デザイン事務所「NaiS」と、「紙飛行機デザイン工房」を開く。企業広告などに使えるユニークな紙飛行機「TONBY(トンビー)」で2008年福岡産業デザイン賞大賞。福岡紙飛行機を飛ばす会「ペーパーエンジェルス」会長。紙飛行機はインターネットなどで販売。電話=0942(73)1093。http://www.kami‐hikouki.com
=2009/09/27付 西日本新聞朝刊=