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スポーツ報知大阪版>コラム>菊地陽子 あしたのヨー

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「任意引退」したボクサーの英断の結末は…

7月9日にWBOアジア太平洋フェザー級王座に挑戦した山口賢一。国内では4月まで日本バンタム級7位にランクされていた

 甲子園では夏の全国高校野球が真っ盛り。今夏、新人以来7年ぶりに地方大会の取材をする機会があり、選手より監督の話を興味深く聞いた。選手を乗せることがうまい監督がいれば、勝った後もグチばかりこぼす監督がいる。敗戦後、前向きな監督のチームの選手は「ここまで来れると思わなかった」と話し、後ろ向きな監督のチームの選手は「仕方ないです」とあっさりしていたのが印象的だった。指導者の姿勢は、選手に伝染するのだなあ、と。

 「マッチメーク」がものをいうプロボクシングの世界でも、ジムの会長の姿勢が選手に与える影響は大きい。それがボクサー人生を左右するといっても過言ではない。単純にやる気がある、ないだけでなく…。

 7月9日、元日本バンタム級7位の山口賢一(29)が単身でオーストラリアのシドニーに渡り、WBO(世界ボクシング機構)アジア太平洋フェザー級王座に挑戦した。WBOは日本の未公認団体で、たとえ王座を獲得しても国内ではキャリアとして認められない。山口は5月に突然、JBC(日本ボクシングコミッション)に引退届を提出して海外へ活動の場を求めた。健全なボクサーが異例の「任意引退」を決めたのはなぜか。簡単にいえば、目標にしていた日本タイトルマッチの夢がかないそうにないから。ジムに愛想をつかしたのだ。

 山口は3人の世界王者を輩出した名門、大阪帝拳ジムに所属していた。吉井寛会長の姿勢は一貫して現実主義だ。現役続行に固執する元WBC世界バンタム級王者・辰吉丈一郎に対して「リング事故の危険性」を懸念して猛烈に反対し、引退扱いにする一方で、「引退するなら、きっちりとした花道は作る」と言う。実力に見合わない無理なマッチメークはしないし大風呂敷も広げない。ボクシングという競技の性格上、それは選手のためでもある。山口もそれはわかっていた。

 日本王座挑戦に向けての試験的な試合が何度かあったが、会長の首を縦に振らせるだけの内容を見せられなかった。それでも、どうしても地元の大阪・京橋で応援してくれている人にタイトル戦を見せたい。そして、もうひとつ大きな理由があった。「俺がいなくなったら、会長も少しはあせって、試合を組んでくれへんかなあと思って」。同じくベルト獲得を目指す日本ライト級5位の高瀬司(22)ら後輩に同じ思いをさせたくない。人情深い、兄貴分の彼らしい決断だった。

 忍者の衣装で入場して気合十分だった試合の結果は1回TKO負け。しかし、果敢にチャレンジした29歳にはご褒美があった。この試合がノーコンテスト(無効)になることが決まったと8月5日に正式に連絡があったという。試合では山口がダウンを奪うなど優勢に試合を進めたが、片足をリングの外に滑らした際に王者ビリー・ディブが後ろから攻撃。明らかな反則にもかかわらず、レフェリーがそのままカウント。試合は全豪に生中継され、世論は山口に同情的な見方をしてくれたという。コミッションが冷静に判断し、今後は山口に再戦か別階級のタイトル挑戦のチャンスが与えられることが濃厚になった。

 「ある意味おいしいでしょ? タイトル戦ができるなら、僕はどの国にも行きますよ」と電話口で弾む声。世界王者のいるジムからスパーパートナーにも誘われたといい、日本にいたころよりもあらゆる可能性を手にした。日本未公認の団体のため表舞台にこそ出てこないが、少なくとも“一人の男として”挑んだ一世一代の賭けは成功した。彼の場合、国内タイトル戦のマッチメークには難を示したジムの会長が「やりたいならやってこい」と送り出してくれたことも奏功したと思う。

 ボクサーにとってのジムの会長は、サラリーマンにとっては上司や社長だろう。大学の同期で久しぶりに集まった時、酒席で順番に上司へのグチ自慢をし始めたことを思い出す。ブツブツと文句を言うことがストレス解消になっていた最近の自分の姿を省みてみる。不遇や環境を上のせいだけにするのではなく、それさえも生かして道を切り開けるかどうか。殻を破った山口の行動はちょっとうらやましく、勇敢な彼のこれからのボクサー人生に幸あれ、と思わずにはいられない。

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(2009年8月17日18時05分  スポーツ報知)

筆者略歴  菊地 陽子(きくち・ようこ)

02年入社。大阪府出身。文化社会部での宝塚歌劇、運動部でのオリックス担当などを経て、昨年からボクシング担当。リングサイドでの初取材では、ボクサーの鮮血が顔にかかって卒倒しそうになったが、今ではすっかり拳闘の魅力にハマっている。

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