水俣病の潜在患者を掘り起こす「不知火海沿岸住民健康調査」が始まった20日、県内では、水俣市や天草市など5市町の9会場で検診が行われた。初めての受診者も少なくなく、さまざまな期待や不安の声が交錯した。
水俣市の熊本学園大水俣学現地研究センター。鹿児島県出水市から訪れた主婦(58)は父と兄が原因企業のチッソで働き、自身は視野狭窄(きょうさく)や頻繁につまずく症状に長い間悩まされてきたという。「私はやっと打ち明けることができたが、症状を言えずに亡くなった人もいる。もっと早い段階で国が一斉検診をするべきだった」と憤りを見せながら保健手帳取得に期待を込めた。
天草市の東保健福祉センターでは、保健手帳交付対象地域に隣接する同市倉岳地区などの住民約40人が受診した。同地区に住み、水俣湾沖の漁場で魚を捕ってきた漁業男性(77)は、手足のしびれなどの症状があるという。「対象地域外だからと手帳申請を遠慮してきたが、同じ海で漁をする漁師が、住む場所が違うだけで対象外になるのは何かおかしい」と訴えた。同センターで診察に当たった島松まゆみ医師は「手先、足先の感覚に低下が見られる人が多く、驚いた。対象地域外でも被害があることを実感した」と話した。
=2009/09/21付 西日本新聞朝刊=