衆院選に際し、過疎化が進む甲州市塩山一之瀬高橋地区にある集落を取材した。65歳以上の住民20人ほどが暮らす。高齢化率が5割を超す典型的な「限界集落」だ。
「候補者に期待することは?」との問いに、たいていの住民は困ったような表情を浮かべて答えた。「特別なことは何も望まない。ただ、生まれ育ったこの場所で死にたい」
集落はかつて林業や炭焼きで栄え、50年前は約200人が暮らしたが、林業の衰退とともに若者は市街地に出ていった。公共交通機関はなく、生活用品の買い出しや病院への通院手段はマイカーだ。70~80代の住民たちが、往復2時間以上かけて険しい山道を運転しなければ生きていけない現状を知り、がく然とした。今のままでは、少しでも体調を崩して運転ができなくなれば、集落を去るしかないのだ。
衆院選では、各党が高齢者や社会的弱者を重視する政策を掲げていた。しかし、この集落に選挙カーが遊説に来ることはなかったという。「この場所に住み続けたい」。住民のささやかな願いに、耳を傾けることのできる政治であってほしい。【山梨駐在・曹美河】
毎日新聞 2009年9月25日 地方版