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社説

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鳩山・オバマ―世界のための日米基軸に

 太平洋をはさんだ二つの民主党政権のトップが、初めて顔を合わせた。片や半世紀余の自民党政権からの、片や8年間のブッシュ政権からの「チェンジ」を掲げて登場した。日米関係も新しいスタートである。

 鳩山由紀夫首相との会談後、オバマ米大統領は記者団にこう語った。

 「首相は選挙公約(の実現)に成功するだろうし、それは日米同盟を強化し、刷新する機会を与えてくれるだろう。私はそう確信している」

 米国で出回った首相論文の要約は反米的ではないのか。民主党が掲げた「対等な日米関係」とは何なのか。米国では事前にさまざまな懸念が語られたが、オバマ氏は首相に温かいエールを送ってみせた。

 会談では、日米同盟を外交の基軸とするという新政権の方針を説明した首相に対し、大統領は「これから長いつきあいになる」と応じたという。

 日米間にも懸案はあるし、地球規模の難題も山積みだ。オバマ氏の任期は少なくとも4年。鳩山政権も基盤は安定している。腰を落ち着けて、一つ一つ取り組もうということだろう。

 この出会いには、歴史的な巡り合わせがあるようだ。オバマ氏が重視する核軍縮・廃絶や温暖化対策、対話による国際協調主義は、どれも鳩山民主党政権の基本路線と響き合う。

 国連総会での演説で首相は、国際社会の「架け橋」として日本が挑むべき課題に、気候変動や核軍縮、東アジア共同体の構築など5項目を列挙。安保理の常任理事国入りを目指すことも含めて、今後の日本の国際戦略を明らかにする意図がある。

 思えば「日米蜜月」を誇った小泉政権時代、単独行動主義に走るブッシュ大統領の求めに応じて、イラクへの自衛隊派遣に踏み切り「日米関係が良いほど、アジア諸国との関係もうまくいく」と対米偏重の姿勢が露骨だった。

 米国が率い、日本がつき従う。そんな構図から、日本も主張し、能動的に動く関係への脱却を、首相は伝えたかったに違いない。世界益に貢献するための日米同盟という、新しい姿をここから描き出してもらいたい。

 だが、この会談で語られなかったことも忘れるわけにはいかない。インド洋での給油支援の取りやめや、沖縄・普天間飛行場の移設問題など在日米軍基地再編の見直しだ。大統領が来日する11月までには、日本側としての対処方針を固めなければならない。

 扱いを誤れば、日米関係はきしみかねないし、日本国内の政権批判に火がつく可能性もある。

 政権交代があれば、政策変更はありうる。民主主義国では当然のことが日本でも起きようとしている。信頼を損ねずに、それをどう相手に説得するか。鳩山外交の正念場はそこにある。

キトラの壁画―いつか四神を戻すには

 青竜、白虎、朱雀、玄武の四神は、住み慣れた石室を離れたまま、別の場所で暮らすことになった。

 奈良県明日香村にある特別史跡、キトラ古墳の石室からはぎ取った壁画のことだ。

 有識者らでつくる文化庁の古墳壁画保存活用検討会は先月、「当面の間」と断ったうえで、キトラの壁画を石室外の施設で保存し、管理することを決めた。湿度100%ともいわれる石室に壁画を戻すと、カビが生じて劣化してしまう。いまの技術では劣化は防げないと判断した。

 約1300年前に描かれたこの壁画は、近くにあって「飛鳥美人」で知られる高松塚古墳の壁画とともに、日本では二つだけという極彩色の古墳壁画だ。これらをどう守っていくかは、日本の文化財政策に問いかけられた大きな課題である。

 考古学の世界には、「現地保存」の原則がある。古墳と壁画は一体のものととらえ、そこに文化財としての値打ちを認める。文化庁も、この原則に沿う保存策をとってきた。その立場を守るならば、保存処理した壁画は石室に戻すことになる。今回の決定は、その原則からはずれるが、技術上の困難があるなら、やむをえまい。

 注目されるのは、検討会が「当面」にこだわったことだ。いつかは壁画を石室に戻したいというメッセージが伝わってくる。原則を見失うまいとした姿勢は支持したい。

 「当面」がどのくらいかは、委員の間でも「数年から数十年」「100年先でも200年先でもいい」と見方が分かれる。石室内保存に必要な技術開発の見通しが立たないからだ。

 だが、展望はある。壁画をはぎ取り、修理するだけなら、日本は優れた技術をもっている。一歩進めて、劣悪な環境でも壁画を保存できる手法を、できるだけ早く見いだせないか。こうした保存科学の進歩に文化庁は力を注いでほしい。

 高松塚の方はキトラよりも劣化が激しく、石室を解体し、石壁ごと取り出して修理している。「修理後は復元した石室に戻す」が文化庁の方針だ。キトラの決定で、こちらも当面は石室外保存になるかもしれないが、現地保存の旗を降ろすべきではない。

 いつか石室に戻る日まで、キトラの壁画をどこに保存するかは決まっていない。四神のほか十二支像、天文図などの壁画はすでに文化庁によるはぎ取り作業が一段落しており、場所選びを急ぐ必要がある。現地保存の原則を忘れないためにも、明日香村に置いて公開を続けるのがよいのではないか。

 財政難の時代ではあるが、文化財保護は民主党の政策主張でもある。国民的な歴史資産を次代に伝える目配りを望みたい。

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