水俣病潜在患者の掘り起こしのため、熊本、鹿児島両県にまたがる八代(不知火)海沿岸各地で行われた不知火海沿岸住民健康調査が21日に終わり、2日間で1051人が受診した。調査に当たった医師たちは、国が「新たな水俣病の発生はない」とする1969年以降生まれの人や、救済の対象地域外に居住したことのある人にも水俣病特有の感覚障害が見られたことを明らかにした。
水俣病の被害者救済をめぐっては、行政の被害拡大責任を認めた2004年の関西訴訟最高裁判決以降、認定申請や保健手帳申請者が急増し、既に3万人を超えている。にもかかわらず、今回の検診では、申込者の9割以上が初めて水俣病の検診を受けた。医療費が無料になる保健手帳の交付対象地域外からも300人以上が申し込んでおり、潜在患者の多数いる可能性を浮き彫りにした。
調査は、患者・被害者7団体や民間医師などでつくる実行委員会(委員長・原田正純熊本学園大教授)が企画。
調査終了後、熊本県水俣市で会見した藤野糺(ただし)水俣協立病院名誉院長は「私が診察した中で、少なくとも69年生まれの2人には(水俣病特有の)感覚障害があった」と証言。さらに「認定相当の重度の人もいた」と述べた。
原田委員長は「多くの人に水俣病の症状があると、あらためて実感した」と語り、今月中に水俣病やその可能性がある割合などを発表する方針を明らかにした。
実行委によると、1051人のうち、960人が原因企業チッソに補償を求める認定申請や、保健手帳を申請する意向を示したという。原田委員長は「ボランティアでこうした検診をしなければならないのか、国はよく考えてほしい」と、実態調査の実施を拒んでいる国の姿勢を批判した。
■救済具体化の端緒に
【解説】7月に成立した水俣病被害者救済法の救済内容の具体化が、民主党中心の新政権下でいよいよ始まる中、20、21日に熊本、鹿児島両県で行われた水俣病の大規模な健康調査で、年代や地域を超えて広範囲に潜在患者がいる可能性が指摘された。実態調査の実施を拒んできた国がこの調査結果にどう応えるのか。水俣病行政の真価が問われることになる。
調査に当たって調査実行委員長の原田正純熊本学園大教授は今回、国に対し、調査への同行を求めた。環境省は水俣病担当の椎葉茂樹特殊疾病対策室長を派遣。国が現場に触れることを重視する原田委員長は、椎葉室長と終始行動をともにして診察に当たった。
呉越同舟の2日間。椎葉室長は、報道陣のインタビューに一切答えようとしなかった。
だが、原田委員長は「医師だから、現場をみれば分かるはず。こちらからはボールを投げた。あとは、国がどう受け止め、どう行動するかだ」と含みを持たせ、国の施策転換に期待を込めた。
一方で、年代や地域によって水俣病被害を限定的にとらえようとしてきた国の立場に理解を示す被害者団体は「早期救済を妨げる」と批判して今回の調査に参加しなかった。こうした対立構図を乗り越える努力が関係者に求められる。
(水俣支局・中山憲康)
=2009/09/22付 西日本新聞朝刊=