北九州市内に勤務する警官の飲酒運転が相次いだ。6月の小倉北署員に続き、8月には小倉南署員による飲酒、ひき逃げ事件だ。県議会では、背景にアルコール依存の傾向があることも明らかになった。県警は緊急対策を打ち出したが、成否は未知数。飲酒運転撲滅の「模範」「旗手」が働いた背信行為に市民の怒りは収まらず、失った信頼は回復できるのか。
■民間では厳格化
「まさか警官が」。「自分たちもかなり気をつけているのに。だらしない」などと市民の怒りや落胆の声が相次ぐ。関係者からも「ありえない」と言う声も上がった。
3年前、福岡市で起きた3児死亡事故以降、さまざまな企業が飲酒運転への取り組みを厳格化させた。西鉄バス北九州では、乗務の前日は飲酒厳禁。携帯用のアルコール検知器を全職員に配布し、出勤前にチェック。乗務の前には管理職の前でもう一度チェックする態勢を整えた。
タクシーの第一交通産業も各営業所に高性能の検知器を配備、乗務の前後で二重のチェックを行う。乗務員採用時に酒量を聞き、依存症の疑いがあれば採用しないという。
相次ぐ不祥事を受け、県警はアルコール依存症の疑いがある職員に職務命令で受診させ、拒否した場合は懲戒・分限処分にするなど従来に比べ、飲酒により特化した対策を打ち出した。
また、小倉南署は、健康診断で肝機能低下が判明した署員に対し、家庭訪問を行い家族の協力のもと本人にアルコール摂取量の調整を促すなど、組織だけにとどまらない家族ぐるみの対策を講じていくという。
■酒量の把握必要
アルコール依存症に詳しい門司田野浦病院の三木好満副院長は「飲酒運転経験者はほとんどがアルコール依存ではないか」と指摘する。飲酒運転に心でブレーキをかけられないのは、通常の飲酒者ではないという。
アルコール依存は、ストレスなどから精神的な安定を求めるのが一因。「依存予備軍を早期発見し、医療につなげるのが重要」といい、日ごろの酒量の把握や心のケアの必要性を訴える。
アルコール依存からの脱却を目指す北九州断酒友の会の堀口俊明事務局長は「依存になれば、脱却は一人では絶対にできない。職場での偏見をなくし孤立化させないことが大切だ」と話す。
■街頭で「厳罰化を」
「二度と自分たちのような飲酒運転の被害者を出さないで」
10年前に東京の東名高速道で飲酒運転の大型トラックに追突され、3歳と1歳の娘を亡くした千葉市の井上保孝さん(59)と妻の郁美さん(40)たち、「飲酒・ひき逃げ事犯に厳罰を求める遺族・関係者全国連絡協議会」のメンバー約15人が今月、小倉北区のJR小倉駅前で声を上げた。小倉で街頭活動を行ったのは、小倉南署警官の飲酒、ひき逃げ容疑事件を知り憤りを覚えたからだという。
「警察官自らが飲酒に厳しく臨まなければ、市民は絶対に納得しない。だからこそ今回の緊急対策は、警察の英断と言える。今後どう警察が飲酒と向き合っていくのか。しっかりと見つめていきたい」と保孝さん。
被害者の悲痛な叫びに応えられるのか。今、県警の実行力が厳しく問われている。
=2009/09/21付 西日本新聞朝刊=