サイエンス

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

Dr.中川のがんから死生をみつめる:/24 「ワクチン後進国」脱却を

 6500人以上の医師を対象としたある調査によると、小選挙区で61・1%、比例代表で50・6%の医師が民主党候補に投票していたことが分かりました。

 医師にも評価された民主党の医療政策ですが、新型インフルエンザへの備えで、さっそくファインプレーが出ました。

 厚生労働省は、ワクチン接種の必要性が高い人を、医療関係者のほか、高齢者や持病のある人ら計5400万人と見込んでいました。しかし、国産のワクチンは1800万人分しか生産能力がなく、海外からの緊急輸入が議論されてきました。

 輸入ワクチンは、国内では承認されていませんから、副作用などについて未知の面もあります。このため、海外メーカーは、副作用などに対する損害賠償の免除を求めていました。民主党は今回、ワクチンによる死亡や後遺症について、医師やメーカーの過失が立証されなくても、国が補償する制度を検討する方針を明らかにし、交渉が一気に進みました。欧米には同様の制度を持つ国もあり、今後の医療事故全般に応用できる新しい考え方といえます。

 ワクチンに関しては、がん医療においても大きな話題があります。子宮頸(けい)がん予防ワクチンの登場です。子宮頸がんは、子宮の出口にできるがんで、日本では毎年8000人の女性が新たに発症し、2500人が亡くなっています。主な原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染です。HPVの感染自体はありふれたものですが、HPVに感染しなければ、子宮頸がんは、まず発症しません。HPVの感染を防ぐワクチンによって、子宮頸がんを予防できるというわけです。欧米の多くの国には、HPVワクチンが無料で接種できる制度があり、オーストラリアなどの接種率は9割近くにのぼります。

 一方、日本は、海外よりも大幅に遅れて、ようやく来月にも認可される見込みです。感染の主な原因は性交渉といわれますが、性教育も遅れています。日本は「がん対策後進国」にとどまらず、「ワクチン後進国」だったといえます。今回の議論を通して、「ワクチン先進国」へ仲間入りしてほしいものです。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)

毎日新聞 2009年9月22日 東京朝刊

PR情報

サイエンス アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド