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支局長からの手紙:怒りをこなす /愛媛

 連休をどのように過ごされてますか。先月の衆院選以来、社会全体に漂っていた高揚した雰囲気が、鳩山内閣の始動とともにこの休みでひとまず落ち着いた感じがします。

 今月6日の毎日新聞社会面に「勤務医『うつ』深刻」の記事が載りました。日本医師会が勤務医1万人を対象に健康に関するアンケートをしたところ、回答者の12人に1人が精神面の支援を要する「うつ状態」だったそうです。患者らの苦情などの矢面に立たされ、ストレスの大きいことが一因としてあげられています。1割弱が心の健康面で支援が必要との結果も出ていました。

 記事に興味をもったのは、たまたまその2日前に会った別の職業の人から、同じような悩みを聞いたからです。キリスト教プロテスタントの松山ルーテル教会(松山市木屋町4)牧師の森優(もりまさる)さん(74)。森さんは「各地の牧師の魂の健康管理をいかにしていくかが、最近の一番大きな問題です。訓練を積んでいるはずなのに、自分の内面で怒りをうまく処理できない傾向にあります」と指摘しました。

 理由を尋ねました。「心の面で健康な人は教会に余り相談に来ません。深刻に苦しんだり思い余っている人を、牧師は精神的に全面的に受け入れなければなりません」。深夜や未明に「死にたくなった」と繰り返し電話をかけてきたり、教会の中に入り勝手な振る舞いをする人もいます。教会の運営について信徒から理解されない時もあります。だからといって感情をあらわにできません。にこにこ、穏やかそうに対応します。

 内面にためた憤りや悔しさの矛先は、家族に向かいがちです。抑圧的な父親になっていたりします。「昔からパスターズキッズ(牧師の子どもたち)の問題と呼ばれています。牧師と父親の相反する姿を見て育ち、子どもが荒れてしまう例があるのです」と森さんは説明します。

 牧師の実践する怒りの処理法を少し教えてもらいました。一日の終わりに黙想しながら、気持ちがなぜささくれだっていたり、不快なのか振り返ってみます。ビニール袋に入れごみを出しておくよう妻に指示されたことか。違う。ついかっとなり、言うことを聞かない子どもを怒鳴ったことか。それでもない。転勤の打診を受けたのに断ったことか。本心は違うのに優柔不断すぎたのではないか--。ひとつずつさぐるうち、心が落ち着かない原因に思い当たります。

 「最後は神に訴えて、神の目でそういう自分の姿勢を見てもらいます。自分だけで見つめると、心の中は嫌なことでいっぱいになってしまいますから」。訓練するうち感情を抑えられるようになるといいます。信徒ではない私には、すべてのまねはできません。

 森さんは牧師の定年を迎えてから昨年3月、自宅のある埼玉県から牧師不在だった今の教会に伝道ボランティアとして着任しました。無給で、妻園子さん(73)との生活費は年金でまかなっています。会う前にそのことを聞き、「聖職者」の虚像を膨らませていました。内面の葛藤(かっとう)に触れ、失礼ながら宗教とかかわりの薄い自分とも距離が縮まった気がします。

 ともあれ、医師や牧師がストレスで対応しきれなくなるほど、国内には悩みを抱えた人が多い証拠なのかもしれません。そうした人を救うのも政治の役割です。ここでも新政権の真価が問われています。【松山支局長・小泉健一】

 koizumi‐kenichi@mbx.mainichi.co.jp

毎日新聞 2009年9月22日 地方版

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