退院時に親が分娩(ぶんべん)費用を原則、負担せずに済む10月から始まる新制度に対し、産科開業医らが悲鳴を上げている。出産育児一時金は、親ではなく医療機関に直接支払われるようになるが、出産約2カ月後のため資金繰り悪化の懸念が出ているからだ。勤務医や開業医らで作る日本産婦人科医会は「導入を3カ月ほど延期してほしい」と訴える。
現行制度は、親が医療機関に分娩費用をいったん払い込み、その後、健康保険などから出産育児一時金が支給される。新制度は一時金を4万円引き上げ原則42万円とする一方、直接医療機関に支払われるようになる。親の経済負担を軽減し、出産しやすい環境を作る狙いだ。
ところが、一時金は出産の約2カ月後に支払われるため、出産を主とする医療機関では10月からの約2カ月間、現金収入が大きく減少する。名古屋市内の開業医は「2カ月間で約2000万円の現金収入がなくなる。ぎりぎりの経営のため不安だ」と打ち明ける。
日本産婦人科医会が8~9月、全国47支部に実施した緊急アンケートでは、10月からの新制度開始を「容認する」と答えたのは4割。容認できない理由について「事務手続きが煩雑」「準備が間に合わない」「資金繰りがつかない」「高額の借金が必要になることに納得がいかない」などだった。茨城県支部では、資金繰り悪化で廃業せざるを得なくなると回答した医療機関が3件あったという。
新制度を巡っては、昨年8月、舛添要一・前厚生労働相が緊急少子化対策として、妊婦が分娩費用の立て替えをしないで済む考えを示した。今年5月末、厚労省が新制度の実施要綱を示した。厚労省保険局総務課は「現時点で制度導入に変更はない。低利で融資する同省所管の福祉医療機構を紹介している」と説明する。
北里大の海野信也教授(産婦人科)は「(新制度は)妊婦にとって負担の軽減につながるが、医療機関の負担は大きくなる。地域の分娩体制を守るため、入金の遅れを短くするなど医療機関の経営が安定化するような対策が必要」と指摘している。【河内敏康】
毎日新聞 2009年9月22日 東京朝刊