●悪循環の危険
同省の統計では、1993年に81,288人だった低出生体重児は、2004年に104,832人と大幅に増加。全体に占める割合は6.8%から9.4%となり、ほぼ10人に1人となっている。このうち、1,500グラム未満は「極」、1,000グラム未満は「超」と、それぞれ規定されている。
懸念されるのは主に低血糖や低体温の症状。低血糖は放置すれば脳に障害が残る可能性があり、体温が低いと、母乳の飲みが悪くなって栄養をうまく吸収できない。「母乳やミルクをしっかり摂取できなければ、栄養不足になって低血糖を引き起こしかねない」と高島医師は悪循環に陥る危険を指摘する。
その後の発育への影響も指摘されている。胎内で低栄養にさらされると、臓器の細胞数や酵素の量などの発達が悪くなる。このため、身体の成長の度合いが不十分な場合があるほか、成人してからは糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病を発症しやすい体質になるとの報告もある。高島医師は「低体重で生まれた場合は離乳期ごろから適切な栄養指導を心掛け、偏食しないよう食生活によりいっそうの留意が必要となる」と話す。
●母体が低栄養
妊娠すると食欲が増す傾向がある。出産に必要な体力をつけるための「自然の摂理」だが、太り過ぎは禁物。産道の内側に脂肪が付いて狭くなり、難産や帝王切開の状態を招きかねず、妊娠中毒症や糖尿病を引き起こすこともあるからだ。このため医師は妊婦の体質などに応じて6キロから10数キロの範囲で増加分を抑えるよう指導する。
だが、体質的に太りにくい人を除いても、やせ形が増えているのが最近の特徴だ。厚労省によると、女性のうち20歳代を中心にやせ形が目立ち、これらの年代の妊婦には出産後、元の体形に早く戻すため、体重増を過度に気にするケースが見られるという。
高島医師は「母体が低栄養だと、胎児に栄養が十分に行き渡らない。妊娠後もずっとやせた状態だと、低体重児が生まれる可能性が高くなる」と説明する。
こうした状況を受け、厚労省は昨年2月、妊婦の低体重問題を考える学識経験者による研究会を発足させ、今年2月には「妊産婦のための食生活指針」をまとめた。
指針では体形を判定する指標で、体重(キロ)を身長(メートル)で2回割った数値で表す「BMI」が18.5未満を低体重(やせ形)と分類‖図参照‖し、9キロから12キロまでの間での体重増加を勧告。食事の際はご飯などの「主食」、野菜や海藻類の「副菜」、肉や魚、卵の「主菜」の順にバランスよく食べることを助言している。
●喫煙率が増加
低体重児が生まれる、もう一つの大きな原因とされるのが喫煙。たばこに含まれるニコチンは胎盤への血液量を減少させ、一酸化炭素は胎児を低酸素状態にする。いずれも低体重を招く要因であり、こうした喫煙と低体重児の因果関係を示す論文も数多い。
厚労省の調査によると、喫煙の習慣をもつ妊婦は非喫煙者に比べ、低出生体重児が生まれる確率が2倍、早産率は1.5倍とされる。妊婦の喫煙率は増加傾向にあり、世代別で最も高い10歳代は34%(2000年現在)に上る。
「問診でも、たばこを吸うと答える若い母親が増えている。当然、禁煙を勧めているが、実際にたばこをやめる人は2割程度ではないか」と高島医師。「ニコチンパッチ」など禁煙補助品の中には胎児への悪影響が指摘されている物もあり、高島医師は「ストレスのたまりやすい妊婦の禁煙をどう指導していくかも、これからの大きな課題」と話している。
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【写真】北九州市立医療センターの高島健医師
【図】妊娠前の体型(BMI)を知っていますか?/体格区分別 妊娠全期間を通しての推奨体重増加量