中小企業や個人の借金返済を猶予する支払猶予(モラトリアム)制度の導入をブチ上げた亀井静香金融・郵政担当相(72)。「生活が第一」を掲げる新政権らしいアピールと思いきや、藤井裕久財務相(77)が18日の記者会見で「そんな(制度を導入するという)話になったら政府全体の問題になる」とかみつき、波紋を広げている。鳩山内閣は早くも内紛の火種を抱えた格好だ。
亀井氏のモラトリアム制度導入発言を受けて、株式市場には「銀行の不良債権が増える恐れがある」(大手行幹部)との不安が広がり、銀行株がたたき売られた。
17日は、日経平均株価が前日終値比172円高と大幅続伸したものの、三井住友フィナンシャルグループが前日比200円安の3360円と急落したのをはじめ、三菱UFJフィナンシャル・グループが10円安、みずほフィナンシャルグループが3円安とメガバンクが総崩れ状態となった。
このほか、りそなホールディングスや大垣共立銀行など多くの銀行株が年初来安値を更新する事態になった。
銀行株は18日も“亀井ショック”で下げて始まった。
モラトリアム制度は、金融機関に対し、中小企業向け貸し出しや個人向け住宅ローンの返済猶予を促すもの。金利分さえ支払えば、元本返済を3年程度猶予する。
亀井氏は17日の初閣議後の記者会見で、同制度創設の法案を10月の臨時国会に提出する考えを表明。「金融機関が(貸し渋りなどをして)社会的使命を果たしていない。だから国が出ていかざるを得ない」と制度導入の正当性を強調した。
これに対して、藤井氏が18日の閣議後会見で、「そんな(制度を導入するという)話になったら政府全体の問題になる。確かに昭和初期に(この制度を)やっているが、そういう状況なのか」と疑問を呈した。この藤井発言を受け、それまで売られていた銀行株が買い戻されていった。
この制度を導入すれば、住宅ローンなどを抱えて家計のやり繰りに苦しむサラリーマンや、資金繰りに奔走する中小企業経営者にとっては、借金の負担がいくぶん減るため、一息つくことができる。
しかし、この制度は法律上、問題が生じる可能性があると指摘する専門家もいる。「民間の融資契約に対し、国が後から借り手に有利なように契約変更を迫る制度は異例で、法律上、問題が生じる恐れがある」(金融問題に詳しい弁護士)
金融庁内でも、返済猶予を努力規定にするなら問題ないが、義務化となると憲法で保障する財産権に抵触する可能性が高く、「法律的に難しい」とみている。
さらにこの制度は、金融機関の収益力を弱らせる危険性もある。借金の返済猶予により、資金回収が遅れ、融資が焦げ付くリスクが高まる。そうなれば、貸倒引当金を積み増さなくてはならず、収益の悪化要因につながるからだ。
金融界には、「モラトリアムが実施されれば平成の『徳政令』になる」(証券幹部)といった批判がうず巻いている。
ある証券関係者は「過去にも融資制度をめぐりさまざまな政府支援があったが、反社会的な勢力がこの制度を悪用するケースも多く、実際に庶民のためにならないこともあった」と指摘する。
亀井氏の言動は当面、鳩山内閣や金融界を揺さぶることになりそうだ。