９年連続２００安打、メジャー初　イチロー泰然、これも通過点

　【アーリントン（米テキサス州）＝丹羽政善】米大リーグ、マリナーズのイチロー外野手（３５）＝本名・鈴木一朗＝が１３日、今季出場１２８試合目で大リーグ史上初となる９シーズン連続２００安打の偉業を達成した。通算９度目はタイ・カッブ（タイガースなど）と並ぶ歴代２位。来季は史上最多の１０度をマークしたピート・ローズ（レッズなど）の記録に挑む。新記録にあと２本としていたイチローは、レンジャーズとのダブルヘッダー第２試合の第２打席で遊撃内野安打を放ち、ウィリー・キーラー（オリオールズなど）の大リーグ記録を１０８年ぶりに塗り替えた。

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　◆ＷＢＣの経験

　金字塔を打ち立てた一打は、イチローらしい内野安打だった。持ち味のスピードに相手のショートは送球をあきらめた。１００年以上の時間を超えて塗りかえた大記録。スタンドからの称賛に、塁上のイチローは感慨の色を浮かべた。控えめにヘルメットを掲げ、喜びをかみしめた。

　新しい境地で大リーグの頂点に立った。３月のＷＢＣでは、不振を極め、経験のない恐怖に襲われたという。準決勝までの打率は・２１１。心が折れかかるほどのスランプに陥った。

　しかし、韓国と５たび相まみえた決勝戦の延長十回、日本の連覇を決定づける中前適時打を放つ。極限状態の中で期待に応えたイチローは「一つ壁を越えられた気がする」と振り返った。この経験で怖いものはなくなったという。

　例年はシーズン２００安打が近づくにつれ、重圧から激しい動悸（どうき）や目まいに見舞われてきた。新記録を目指した今季は、より大きな負荷がかかっても不思議ではなかったが、「楽しくはないけど、気持ちよかった」と懐深く受け止めた。２試合連続無安打がないまま、節目の２００安打に到達した。幾多の積み重ねで真の強さを手に入れた。

　「今のぼくはそういう圧力によってパフォーマンスが変わるとは考えていない。そういう自分というのは少なくとも、現状では過去のものだと思っている」。苦しむことなくメジャー通算２千安打を達成した際、さらりと言い切った。

　大リーグのシーズン最多安打記録を更新した２００４年。イチローは「言えるのは、小さいことを重ねることが、こういうことに到達するただ一つの道ということ」との言葉を残している。ストレッチ、ランニング、キャッチボール、バッティング。食事を含めた準備を毎日、狂いなく進めていく。妥協のない継続が、変わらぬパフォーマンスを支えている。

　◆パワー偏重変えた

　１９９０年代から２０００年代前半の大リーグは、パワー偏重の野球が支配的だった。筋肉増強剤に代表される薬物の力を借りた選手も少なくなかった。

　「僕がこちらに来て思うのは、体がでかいということには、それほど意味がないということ。大きさや強さに対するあこがれが大きすぎて、自身の可能性をつぶしてしまう人が多い。自分の能力を生かすことで、可能性は広がる」

　メジャーでは小柄な部類のイチローがもつ信念だ。力技に背を向け、鋭敏な感覚とスピードで大男たちに伍（ご）し、歴史に名を残した。大きなことはいいことだ−といった気風があるテキサスでの新記録達成は、米国でのイチローの来し方を象徴するようでもあった。（佐藤正弘）