60年代、70年代は「白豪主義」なんて言われる白人社会でしたが、80年代くらいからがらっと方針転換して、「アジアのオーストラリア」「太平洋のオーストラリア」なんて言うようになって、移民の受け入れにものすごく寛容になった。東海岸のメルボルンとかケアンズに行くと、アジア人、太平洋の人がものすごく多い。
昔はインフレばかりで経済が停滞していた時期があったのだけれども、再び成長軌道に乗った。移民を受け入れることで、経済が活性化したのを感じる。
だから、日本でも少子高齢化対策はそれなりに必要なんだけれども、アジアの人々をどう受け入れるかを議論すべきです。グローバル化によって、資本や技術、人が国境を越えて既に動き始めているのですから。
アジアに向かって、「日本に来て、自由に働いて良いですよ」と言えば、怒濤のように押し寄せてくるでしょう。それに背を向けて、東アジア共同体もなにもないだろうと思います。国民的なレベルで議論して、それでいこうと思えるビジョンをどうやって作っていくかが、大きな課題です。
渡部 民主党になって良かったことは、今まではがちがちだったことが崩れたということです。
民主党のリーダーや議員は、必死でいろんな情報とビジョンを求めていると思いますよ。どれだけ新しいアイデアを集めて、それらを整理して取り入れるかが重要ですね。
非政府組織(NGO)とかシンクタンクとか、アイデアを出してくれるところはたくさんある。国の官僚機構や国会議員の頭の中だけでできるものではありません。特に国会議員は票を投じてくれている人たちの利害を考えますから、大所高所からビジョンを打ち出すのが難しい面があります。
成功している国家は、ある時期に来ると中央の官僚のコントロールを離れています。長く成功し続けるためには、転換も必要だし、柔軟性も必要です。
自民党の時は、役所の方々は議員の“お守り”が大変だった。国会質疑の想定問答集まで作ったりして、労力を消耗していたんですね。そんな整合性の取れた質疑なんてもういいから、多少破綻があっても前向きに考える議論をしてほしい。役所の観点から企画立案をどんどんやってほしいですね。
シンクタンク、民間企業のアイデアを生かすべき
渡部 私自身、シンクタンクにいますが、今のシンクタンクには、役所からの出向の人もいますし、役所を辞めた人もいっぱいいます。若い世代は、既に変わってるんです。
民主党には、その現実を生かせるような体制にしてほしい。シンクタンクや民間企業を含めて、アイデアを幅広く取り入れるようになると、答えやオプションがいろいろ出てくるでしょう。実はものすごく大変なチャレンジなんですけどね。
竹中 地方と農業の問題も、グローバル化をからめて発想をひっくり返しちゃえばいいんですよ。
今の日本の農業の生産性では給与は月額15万円とか、20万円とかでしょう。でも、それだけもらえるなら自分は日本に働きに行きたいというアジアの若者はたくさんいて、実際、働いている人もいる。
でも、今はきちっとした枠組み、政策的な位置づけができていない。だから中国から「研修生」の名目で来た若い人が農家で安い賃金でこきつかわれて、問題になったりしているわけです。
でも、農家には働き手に対するニーズがあって、その給与水準でも働きたいという供給側のニーズもある。これがぴたっとはまるような、政策的な枠組みができたら「グローバル化から取り残された地方の農業」という図式がひっくり返って、日本の農業を大変革させることができるかもしれません。
渡部 移民受け入れの問題は、小渕恵三内閣の時代から提言されてましたよね。今回はあまり目立たなかった。国籍法が改正されたら大変なことになると、右派が攻撃していた。
でも、「日本人の純血を守るんだ」みたいな勢力は、生き残れないんですよ。なぜかというと、「純血を守った結果、国がつぶれたり、小さくなったりしていいの」と聞いた時、答えがないからです。