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特集ワイド:’09天下の秋 だれが呼んだか「小沢ガールズ」 転身術のイロハ

 民主党が政権交代を果たした総選挙で誕生した「小沢ガールズ」。だれが呼び始めたかは定かでないが、経歴も外見も華やかで、シンの強い雰囲気も共通している。彼女たちはどうやって政界に転身できたのか、小沢一郎代表代行の選挙手法を探った。【鈴木梢】

 ぜひともヒロインたちに会ってみたい。だが、事務所に電話を入れた途端に流れるピリピリムード。マスコミへの発言は慎重に、と党から新人議員らにお達しがあったからだろうか。小沢氏自身が2回選挙区に入り、公明党の太田昭宏前代表を降した東京12区の青木愛氏(44)=写真<1>。事務所の返答は「スケジュールの切迫で、すべてお断りしております」。

 目当ての議員に次々電話をかけたが、当選のあいさつ回りで忙しいという同じ理由で、取材を断られた。女性パワーで自民党を下野させた小沢氏のリクルート法が気になるのだが--。党本部の関係者さえ「私も知らされていないんですよ」。小沢氏の元秘書に電話して「小沢代表代行のリクルート法を」と切り出すと、プツリと切られた。

  ◇

 当選後も毎朝、駅頭に立つ東京10区の江端貴子氏(49)=写真<3>=を直接訪ねた。自民党の小池百合子元環境相の「逆刺客」として擁立され、使命を果たした。あいさつすると、投票までに10万枚配ったという「政権交代が生活を救う!」の名刺のままだった。「議員会館の部屋番号も決まってませんし、準備といってもピンとこないんです」

 「おはようございます。いってらっしゃいませ」。ピンクのジャケット姿の江端さんに激励の声を掛ける人は多く、口ひげを蓄えたトラック運転手も信号待ちの間に窓から身を乗り出し「江端さーん」。だが、元東大特任准教授で中学3年生の母、「ガールズ」ともてはやすのは気が引ける。

 「自分の中では、ガールズは45歳以下と線を引いてます。せめてレディースはどうかと思いますが……やはり変ですね」。気さくに応じてくれた。小沢氏に近いとされることについて「確かに小沢代表の時に候補予定者となり、選挙責任者でもある。どう行動していくかで評価が決まると思います」と手堅い答えだ。

 この安定性からか、選挙中に小沢氏は来なかったというが、氏の選挙心得は肝に銘じた。戸別訪問は3万軒、辻(つじ)立ち1日50カ所、ポスターは最低3000枚--。「日々の活動を書きとめ、毎月小沢さんに報告しました。1日60回の辻立ちもした。地道な活動なので、すぐに効果が出るわけではない。夏の午後はみんなクーラーの利いた室内にいて、人っ子一人いない所でも演説した。意味があるのかと悩んだけれど、部屋の中で聞いていてくれたんですね。当選した今やっと分かった」

 米マサチューセッツ工科大学院留学や企業の取締役などを経て、母の介護経験から政治を志した江端さん。華があり女性政治家としての資質を兼ね備えた印象のある小池さんに対し、キャリア女性と家庭人の顔を併せ持つ。知的で堅実な雰囲気が、有権者を引きつけたのだろうか。

  ◇

 小沢氏は06年以降、選挙で連勝している。「女性候補にこだわる原点は06年衆院補選で当選した太田和美さんの成功体験にある」。民主党事務局長の経験がある政治アナリストの伊藤惇夫さんは指摘する。

 4年前の「郵政選挙」で民主党は岡田克也元代表のもと惨敗。新代表となり臨んだ翌年の衆院補選で、小沢氏は千葉7区で太田氏(30)=写真<6>=を擁立、現役最年少で当選させた。今回、石川2区の田中美絵子氏(33)=写真<4>=は風俗ライターの経歴を写真週刊誌に報じられたが、同様にキャバクラ勤務の過去をあばかれた太田氏は社会経験だと説明。大胆さが評価されたのか、福島2区に国替えした今回も当選した。

 伊藤さんは分析する。「小沢さんには選挙に強いという神話があるが、実際は勝ったり負けたり。でも、太田さんの成功で神話が復活した。小沢さんは有権者の意識や社会の空気を読み取るのが非常にうまい。公約として打ち出すのは生活密着型の言わばバラマキ政策ですが、今回はマニフェストという衣をかぶって効果は大きかった」

 もう一つ、民主党の弱点だった女性の低い支持率を克服した点も見逃せないという。「男性候補を眺めるとイケメンが多いのに、女性票は弱かった。それを考えれば、今回の女性の大量擁立は選挙戦術上出てきて当然なんです。民主党執行部はこれまで地方の意向に引きずられ、候補者擁立の強権発動をできなかった。それを小沢さんのカリスマ性でねじ伏せた」

 典型的なのは長崎2区の福田衣里子氏(28)=写真<5>。伊藤さんは「薬害肝炎九州原告団の代表時からスター性があり、国に対してしっかり物を言う姿勢も民主党にぴったり」と話す。選挙事務所には小沢氏の女性秘書が入り、お辞儀の仕方を見本として見せ、握手は両手でするなどきめ細かい教えを伝えたという。福田氏は中山間地でも走れるよう服装はパンツスタイルにし、軽自動車で路地裏まで回った。山口初実選対事務局長は「秘書は30代独身で、少しお姉さんといった感じ。本人は突然、政治の世界に来たので、相談相手として精神的な支えにもなったようです」と話す。

  ◇

 「政治は数であり、数は力である」。小沢氏の政治哲学は田中角栄元首相直伝とされる。田中氏と竹下派の金丸信元自民党副総裁から、小沢氏は厚く信頼された。伊藤さんは指摘する。

 「やはり田中角栄さんの申し子です。今回新人にたたき込んだのも田中流の現代風アレンジ。経世会(竹下派)の強さは選挙のイロハを教える秘書団を抱えていたことですが、小沢さんはそれを個人でやっている」

 代表的な教えは「川上作戦」で、街中より山間部に足を運び住民と握手し支持を訴える。人がまばらで候補者が寄り付かない川上の山奥まで行くことで、その熱心さが口伝えに川下まで広がることなどから、こう呼ばれる。

 伊藤さんは「民主党はこれまで都市部での空中戦に強かった。それを維持し、弱かった地上戦を強化した。地上戦は従来型のどぶ板選挙で、自民党が手を抜き忘れかけていたもの。日本人の心の中にどぶ板への共感やノスタルジーが残っていて、琴線に触れたのでしょう」と分析する。

 候補者には小沢氏の政治塾出身者はいるものの、そのリクルート術はベールに包まれている。「地域の事情通を探したり八方手を尽くしていると思いますが、その辺はよく知られていません。選ばれた人は過去の経歴など非常に質が高いし、活動内容も能力の高さを感じさせる」。群馬4区の三宅雪子氏(44)=写真<2>=については「かつて小沢番の記者で分かりやすいが、実は三宅さんの祖父、父はともに中曽根康弘元首相と近しい」。伊藤さんは、小沢氏の審美眼を高く評価する。

 「小沢ガールズ」の国会デビューは、16日だ。

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t.yukan@mbx.mainichi.co.jp

ファクス03・3212・0279

毎日新聞 2009年9月11日 東京夕刊

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