●日本ペンクラブ・メールマガジン「P.E.N.」第36号2005年11月30日
第21回平和の日の集い(松山市)対談IV〜落合恵子VS井上ひさし その2
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前号に引き続き、今年3月、愛媛県松山市にて開催した「平和の日」の集いより、
対談の要旨をお送りいたします。
作家の落合恵子さんと井上ひさしさんが「私たちの暮し」について語ったトーク、
その2です。
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■リレートークIV「平和の日に想う私たちの暮し」〜井上ひさしVS落合恵子 その2
井上 地球の温暖化で北極の氷がどんどん溶けていたり、インド洋上1200もの島が
あるモルディブでは海面が上がってきて400もの島が沈んでいます。
それから日本の人口は減ってますが、世界的に見ると依然として増えていますし、
それにつれて飢餓も増えてきています。
これらのどれひとつを取っても、軍事力では解決できないんですよね。
軍事力による安全保障というのは大きな間違い。大人たちはよく、日本の未来は
と言うんだけど、日本の未来は目の前にいる子供たちなんですよ。
その子供たちにしっかりしたことを教えるべきで、人の役に立つ、人のために生
きていけば、それが日本の本当の安全保障だと思う。
それが武力、一番強いものの武力に頼って、一緒になって憲法無視をして、全部、
閣議で決めちゃう。
閣議というのは、ものを決める時、一番ランクが低いんですよ、本当は。その上
に政令とか法律とか憲法があるわけですが、一番簡単な方法でどんどん変えていっ
て、というこの国のものごとの決め方、それに対するわれわれの鈍感さというのは、
数年後に大きなことになってくるんじゃないかな、と憂えています。
落合 本当にそうですよね。アメリカがアフガン報復攻撃を決めた時、アメリカの
上院議員でたったひとり反対したアフリカ系アメリカ人の女性議員がいたんですね。
彼女が次の年に来日して公開討論会をやったのですが、その場の全員が賛成した
時、たったひとりで反対と手を挙げるのは勇気がいることで、あなたにそれだけの
力をくれたものは何ですかと聞いてみたら、自分がアフリカ系アメリカ人というこ
とに関係あると言うんですね。
彼女が帰国した年の暮れに選挙があって、カリフォルニアでトップ当選しました。
それを知った時、自分は手を挙げて反対することはできないけど、それをやって
いる人に後ろから声をかけたりというような形での参加なら、私たちだって十分に
できる、と思いました。
やはり、普段の生活を大切にすること、そしてその中に大好きな人、それは夫だ
って子供だっていいわけだけど、そういう人がいるかどうかが、とても大事なこと
ですね。
人口の半分が女性でいながら、日本の女性政治家の数は世界でも最下位のほうで、
やはり決定する場所には女性はなかなか入れない。
そういう決定権はいらないよというのもひとつの人生だけれども、ある種の社会
は政治で決まっていってしまう悲しい現実があるならば、そこでも女性たちはもっ
と声を挙げてほしいなと思います。
井上 やはり私たちが怒ったり、抗議したりしながら、自分たちの大事なものを守
っていく。その守るという姿勢から、少しずつ連帯が生まれてくるんだと思います。
そういうことでもしないと、とんでもないところへズルズルと引っ張られそうな気
がしますね。
落合 お金を湯水のように使い、自分のものにしたお金は絶対に出さないという人
たちがいるでしょう。
その一方で、愛する人のラストステージの一晩いくらの入院費だって、介護保険
の1割だって大変という現実がある。
そういうのを聞いていると、本当に震えるほど腹が立ちます。怒るのはすごく疲
れちゃうんだけど、もっと怒らないといけないかな、という気がしますね。
井上 各方面でそういうことをやっていかないと、嫌な世の中になりそうな......。
終わりになってしまいましたが、落合さん、何かレコードを用意してくださったん
ですよね。
落合 オーストラリアの曲で、私たち、これを繰り返しますか、という問いかけを
含んだ「母親たち、娘たち、妻たち」という歌があるんです。
作詞、作曲、歌手、演奏者は全員女性で、もう30年以上も前に自分たちの歌いた
い歌を作ったらロングセラーになっていた。
今の時代とこれから私たちが迎える可能性のある時代のことを考えながら意訳し
てみましたので、味わってみてください。
(テープから流れる歌をバックに、歌詞を朗読)
A♪最初は父親だった。
最後は息子だった。
そしてその間に、お母さん。あなたの夫、お父さんもまた、ドラムの音に見送ら
れて、鉄砲担いで、戦場に行った。
それでもお母さん。あなたは一度もそれを疑問に思わなかった。
耐えること、従順であること、受け身であること、それが女の人生のすべてだと、
あなたは教えられてきたから。A♪
♪それでもお母さん。私たちは知っている。
お父さんの戦死の報せを受け取ったあの時、お母さんが私たちに隠れて泣いてい
た後ろ姿を。二度と帰って来ないお父さんの写真にキスをして、あなた、帰って来
てください、としか言えなかったお母さんの悲しみを、私たち子供の世代はいつも
傍らでじっと見ていた。♪
(冒頭のA♪、リフレイン)
♪あれから21年が経ちました。
お母さんのちいちゃな男の子が立派な青年に成長しました。
ホッとしたのも束の間、トランペットが再び高らかに鳴り響いて、息子もまた、
戦場へ取られて行きました。
見送ったあなたは、慣れないトラックの運転をし、負傷兵の看護をし、そして夜
になれば、息子が無事に帰って来ること、ただそれだけを祈り続け、待ち続けまし
た。
長い長い戦争でした。ようやく終わった戦争でした。
それでもお母さん。あなたの息子はやっぱり帰って来なかったのです。
にもかかわらず、お母さん。あなたは、これが人生なのだから、これが運命なの
だから、と自分に言い聞かせ、悲しみも無念さも憤りもすべて自分の胸に畳み込み、
今まで通りの静かな人生に戻っていきました。♪
(冒頭のA♪、リフレイン)
♪お母さん。あなたの娘が大人の女になりました。
そして、かつてのあなたと同じように、ちいちゃな男の子の母親になりました。
今こそあなたに捧げたいと思い、言葉にしようとすると喉に突っかえて出てこな
かったこの言葉を、あなたに送ります。
お母さん、ありがとう。お母さん、大好き。
でも、お母さん。私たちはあなたと同じ人生を送りたいとは思いません。
世の中がおかしくなっていくその時に、黙って耐える女なんて、真っ平です。
誰かの足が意味なく踏まれているのを見た時、踏んでいる大きな足に向かって、
その足どけろよ、と言える私たちになっていきます。
それがお母さん。あまりにも切な過ぎたあなたやあなたの世代の人々から私たち
娘の世代が受け取った一番大きな宿題だと、私は思います。♪
この後、冒頭部のリフレインがもう一度続きます。私はこの歌をこういうところ
でかけるのはもう嫌だと思って、湾岸戦争が終わった後、しまっておいたんですね。
ところが、また、こういう時代が来ちゃったなあという思いがあって、今日は松
山の皆さんに聞いていただきました。ありがとうございました。(大拍手)
井上 一人ひとりが怒る、そして嫌だ、違うと言える勇気を与えられました。あり
がとうございました。
文章=理事・会報委員会委員長 清原康正
(次回の「平和の日」の集いは、2006年3月3日岩手県盛岡市で開催されます)
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■シンポジウムのご案内
「ベトナムを知ってますか?」-- 東南アジアの文学と人権 --
日 時 2005年12月2日(金)18時10分開場/18時30分開演/20時30分終了(予定)
場 所 東京外国語大学 研究講義棟 (1F)115教室
府中市朝日町3-11-1
<会場へのアクセスマップ>
http://www.tufs.ac.jp/index-j.html
主 催 日本ペンクラブWiP委員会・人権委員会
協 力 東京外国語大学 川口研究室・東京外国語大学総合文化研究所
プログラム
【ベトナム民族音楽演奏】小栗久美子(東京外国語大学大学院 博士前期課程)
【開会挨拶「WiPとは」】今野 敏(作家)
【パネルディスカッション】
〔パネリスト〕
関川夏央(作家・評論家)、西木正明(作家)、森 詠(作家)
〔コーディネーター〕川口健一(東京外国語大学教授 ベトナム文学・文化)
総合司会/新津きよみ (作家)
入 場 無料
定 員 120名(予約不要)
○シンポジウムにむけて......WiP委員長・今野 敏
ペンクラブのWiP(Writers in Prison=言論弾圧によって投獄された作家・ジャ
ーナリストなど)委員会は、世界各国、特にアジアの国々の獄中作家についての調
査ミッションを行っています。
8年前にはベトナムへ行き、作家協会の人たちと話し合いの場を持ちました。
ベトナム戦争終結後、あの国はどうなっているのか。
2002年には、来日したベトナムの作家バオ・ニン氏と懇談、当時のベトナムの事
情を聞きましたが、一般の人にとっては、意外と実情が知られていません。
また、その周辺の国々の文学と人権はどういう現状なのでしょう。
今宵は、しばしベトナム、そして東南アジアの国々に思いを馳せてみたいと思い
ます。
お問合せ先・日本ペンクラブ事務局(安西)TEL 03-5614-5391 FAX 03-5695-7686
・東京外国語大学 川口研究室 TEL 042-330-5319
みなさまのご参加をお待ちしています。
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■シンポジウムのご案内
『日本文学を読みなおす、女性作家の視点から』
日 時 12月9日(金)午後6時開場/6時20分開演/8時30分終了(予定)
場 所 ウィメンズプラザ(B1)ホール
東京都渋谷区神宮前5-53-67
JR山手線・東急東横線・京王井の頭線...渋谷駅下車徒歩12分
東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線...表参道下車徒歩7分
都バス(茶81系統・渋88系統)...
渋谷駅からバス4分青山学院前バス停下車徒歩2分
<会場へのアクセスマップ>
http://www.tokyo-womens-plaza.metro.tokyo.jp/contents/map.html
主 催 日本ペンクラブ 女性作家委員会
プログラム
【開会挨拶】下重 暁子(作家・エッセイスト)
【インタビュー】
津島佑子(作家)
聞き手/与那覇恵子(近・現代日本文学者)
【パネルディスカッション】
〔パネリスト〕
稲葉真弓(作家)、荻野アンナ(作家)、茅野裕城子(作家)、津島佑子
〔司会・進行〕与那覇恵子
総合司会・まとめ/小谷真理(SF&ファンタジー評論家)
参加費 500円
定 員 250名(予約不要)
○シンポジウムの主旨
あなた、あの本を読んだ?
なにそれ、おもしろいの?
本についてのおしゃべりは、こんなふうに始まります。
ここで取り上げられるのは、日本の古典。
取り上げているのは、現役バリバリの女性作家。
女性作家が古典を読む。
そして、話す。
そこからなにが見えてくるのでしょう。
『テーマで読み解く日本の文学--現代女性作家の試み--』が2004年6月に刊行さ
れました。
監修は大庭みな子。
発案者は、女性作家委員会の故三枝和子初代委員長。
現代女性作家、総勢41名が、日本の古典作品を読み、それぞれの立場から書き下
ろしたものです。
これほど大勢の女性作家が集結して日本文学を読みなおすなんて、前代未聞の企
画と言えるでしょう。
そこで、女性作家委員会では、この企画に参加した津島佑子、稲葉真弓、荻野ア
ンナ、女性作家委員会の茅野裕城子、与那覇恵子とともに、日本文学について、楽
しくためになるお話をお聞かせしたいと思います。
●女性作家委員会とは
世界の国々、とりわけ発展途上国では、いまだに女性作家の地位が確立されてい
ず、女性の表現活動(作品発表やジャーナリスティックな報道)が禁止されたり、
作品を発表することに対して弾圧を受けているのが現状です。
国際ペン(本部ロンドン)では「女性作家委員会」を設立、各国のペンセンター
にも女性作家委員会の設立を要請し、世界中で女性の表現者の地位が向上するよう
活動と問題提起を続けています。
第64回国際ペン エディンバラ大会、第65回国際ペン ヘルシンキ大会での「女
性作家委員会」の活動に触発され、日本ペンにも1998年12月「女性作家委員会」が
できました。
お問合せ先 日本ペンクラブ事務局(安西)TEL 03-5614-5391 FAX 03-5695-7686
どうぞご参加ください。
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■ペンクラブ「電子文藝館」のご案内
11月に新しく掲載された文藝作品です。
*短歌・俳句
秋元 千恵子(あきもと ちえこ 歌人)「地母神の鬱」
福島 美恵子(ふくしま みえこ 歌人)「きまじめな湖」
*招待席
松本 たかし(まつもと たかし 俳人)「能役者」
森 鴎外(もり おうがい 小説家)「ゲーテ『ファウスト』より」
柳田 泉(やなぎだ いずみ 国文学者・翻訳家)「女性作家七人語」
*評論・研究
高橋 誠一郎(たかはし せいいちろう 評論家)「戦争と文学」
*小説
伊藤 桂一(いとう けいいち 小説家・詩人)「零秒前」
*詩
平塩 清種(ひらしお きよたね 詩人)「四季の散歩道」
*読者の庭
真岡 哲夫(まおか てつお 研究者・植物病理学)「読書欲と電子文藝館」
閲覧はすべて無料です。ぜひご覧ください。
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/index.html
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「ぺんぺん草」
12月9日(金)に開催されるシンポジウム「日本文学を読みなおす、女性作家の
視点から」は、『テーマで読み解く日本の文学--現代女性作家の試み--』の執筆
者たちが主に参加します。
この本は、上下2巻組で、小学館から発行されています。
どうぞお近くの図書館、書店などで、ご覧ください。
また、前回のメルマガでご紹介した、新井満さん・三宮麻由子さんによる「平
和の日」の集いのトーク中に登場した歌「この街で」が、CDになりました。
松山市内の書店などで販売されています。定価は1000円です。
お近くの方は、どうぞお求めください。
お問い合せ先は、松山市役所 総合政策部 国際文化振興課 電話089-948-6634
http://www.city.matsuyama.ehime.jp/