今回の民主党圧勝という選挙結果は、近年の歴代政権が発足時に高い支持率を記録したのと似た、危うい現象だと思う。ここしばらくは、日本の世論が健全さを取り戻す最後の機会となる。
政権発足時の支持率の戦後1位は小泉純一郎政権で、2、3位は調査した社によって異なるが安倍晋三政権か細川護熙政権、4位は福田康夫政権。つまり、ベスト4のうち三つが今世紀の政権だ。この高支持率が、ほとんどの場合、数カ月から半年で急落した。
新政権が発足すると、新しいものへの期待感が過剰に高まって高支持率となり、何かの拍子で世論の気分が変われば、支持率は急落してしまう。その理由も、麻生太郎首相の「漢字が読めない」をはじめ、大抵は政治とは別の問題だった。この空気が続いているのなら、今回も政権発足後3カ月くらいで、有権者の気分が変わるかもしれない。
何しろ、民主党政権は大きな爆弾を抱えて発足する。鳩山由紀夫代表の「故人」献金問題もある。マニフェスト(政権公約)の項目相互の連関も足りないから、政策がぶれる可能性が高い。それらを理由に支持率が下がれば、党首交代などドタバタ劇が始まりかねない。
これでは、政権交代をしても今までと同じことの繰り返しだ。今回の選挙で敗北したのは、自民党ではなく、日本の民主主義そのものということになってしまう。有権者は、せめて半年や1年は我慢し、民主党の「お手並み拝見」をすべきだ。彼らの問題点を承知で308議席を与えたのだから、そのくらいの覚悟は必要なはずである。
さらに今後は、2大政党の思想も、保守主義か社民主義かという形で問われるだろう。それがないと、2大政党は限りなく似てゆく。個別の政策の微妙な差異を争うだけでは、郵政のようなポピュリズム選挙に陥りがちになる。マニフェストも、個別課題の羅列ではなく、英国のように、どんな国家をつくりたいのか、ビジョンを記したものになるべきだと思う。
個人的には、10年くらいかけて選挙制度を中選挙区制に戻すべきだと考える。小選挙区制や2大政党制は、社会の多様性に対応できないからだ。比例代表の議席を減らして小選挙区の割合を上げるのはもちろん論外だ。社会が流動化し、業界団体などの集票力も弱まりつつある今は、中選挙区制のかつての弊害は薄まっているはずだ。【聞き手・鈴木英生、写真・近藤卓資】=つづく
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■人物略歴
1975年生まれ。京都大大学院博士課程修了。インドや戦前の右翼、現代の若年貧困層問題など幅広く論じる。「中村屋のボース」でアジア・太平洋賞。他に姜尚中・東大教授との対談本「日本」など。
毎日新聞 2009年9月2日 東京朝刊