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魂の殺害者
新装版
教育における愛という名の迫害
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内容説明
フロイトの統合失調症の症例として有名なD・シュレーバーは、幼児期に父親の異常なしつけを受けて育った。その幼児体験が大人になった彼を狂わせる。子どもの心理に及ぼす親の教育の影響を鋭く分析した名著。新装版。
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コメント・書評 |
シュレーバーの「魂の殺害者」は誰だろう・・・。シュレーバー症例理解のための重要作。
反形而上学者
2009/05/03 0:36:47
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評価 ( ★マーク )
★★★★★
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「ダニエル・パウル・シュレーバー」という名前は、精神分析や心理学に興味がある人ならば、かなりの人が知っている名前であろう。
シュレーバーは『回想録』という精神を病んでから、彼の妄想を実に緻密に書き綴った大部の本を出版した。精神病患者がここまで緻密な妄想を克明に書き記した本は、現在も存在しない。したがって多くの分析家や精神科医にいまだに研究されている。中でもフロイトとラカンの『回想録』研究は有名であろう。しかし、フロイトもラカンもシュレーバーが育った家庭環境については触れていない。あくまでも『回想録』の文章を「言語論」的に分析しているだけである。
この『回想録』には非常に不思議な点がある。全22章のうち、第3章がなぜか削除されたまま出版されているのだ。では第3章というのはどういう章だったのかというと、シュレーバーの家族について書かれた唯一の章だったのだ。そして実際には出版社側からの「出版不適当」という理由で、この第3章は削除されることになった。
本書のタイトルは『魂の殺害者』というものだが、シュレーバーの『回想録』には、実に頻繁に「魂の殺害」という言葉が出て来る。いわば「魂の殺害者」はキーワードのようなものかもしれない。
その第3章に数行だけ書かれているシュレーバーのコメントを見てみよう。 「・・・私はこれから私の家族の他の構成員に関する若干の出来事を取り扱う。それは恐らく、前提とされている魂の殺害に関係し得るであろうが・・・」『ある神経病者の回想録』(筑摩書房・渡辺哲夫 訳より)。 これを読むだけで、この第3章が極めて重要な章であることが明らかになりはしないか。しかし削除された。
本書の著者・シャッツマンはR.D.レイン派の精神科医であり、一緒に仕事もしていた。レインと言えば、徹底した患者のサイドに立った考察で、有名であるが、そいうバイアスを考慮に入れたとしても、本書で書かれているシュレーバーが生まれてからされてきた教育には戦慄すら感じる。これでは、誰でもオカシクなってしまうであろう。
ちなみに、シュレーバーの実兄であるパウル・シュレーバーは36歳の時に判事に就任すると同時に拳銃自殺をしている。
シュレーバーの「真実」はどこにあるのか、私には断定はできない。しかし、本書は極めて有効な判断の為の資料として、読者に訴えかける本であることは間違いないであろう。
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