【終息しない集束爆弾】 |
久しく忘れかけていた日本の首相の名前を思い出してしまった。 20年前、「平成おじさん」として一躍超人気者になった、故小渕恵三である。 歴代の自民党総裁・首相としては記憶に残る業績は乏しく、「凡人」とか「冷めたピザ」とまで呼ばれ 2000年の在職中に脳梗塞で倒れ、自民党の悪しき「5人組」を産んでしまった御仁である。 この小渕恵三が生涯唯一残した輝かしい、そして自民党首相経験者にも出来なかった業績がある。 それは1997年9月、第2次橋本内閣改造内閣で外務大臣に就任し表舞台に復帰して、 翌年の1998年に対人地雷全面禁止条約(オタワ条約)を外務省の強い反対を押し切って締結するという歴史的な業績である。 当時はこの事業に関しては、政敵の土井たか子や菅直人からも高い評価をうけたほどであった。 そのオタワ条約は、非政府組織(NGO)と有志国が主導した初めての軍縮条約案策定であり、 先週末に、2度目の成果として「クラスター爆弾禁止」に関して大々的にマスメディアに報道された。 |
<クラスター爆弾>即時全面禁止条約案を全会一致で採択 不発弾による市民の被害が絶えないクラスター爆弾の禁止・全廃を目指しダブリンで開かれていた軍縮交渉 「オスロ・プロセス」の会議は30日、クラスター爆弾を事実上即時全面禁止する条約案を参加約110カ国の 全会一致で採択し閉会した。 12月上旬にオスロで署名式が開かれ、30カ国が批准した段階で発効する。 日本は全面禁止に難色を示してきたが、福田康夫首相の政治判断で条約案への同意を決めた。 非政府組織(NGO)と有志国が主導した軍縮条約案策定としては対人地雷禁止条約(99年発効)に続き2例目の成果。 軍事大国の米露が参加する既存の軍縮枠組みの外で、軍縮の国際合意が形成される流れが定着した。 オスロ・プロセスは昨年2月に開始。5回目のダブリン会議で、最大の難関だった条約案とりまとめと採択にこぎつけた。 日本首席代表の中根猛・外務省軍縮不拡散・科学部長(大使)は、 「日本は条約案採択のコンセンサスに参加することを決めた」と条約案への同意を正式表明した。 署名に関しては「日本の安全保障環境に注意を払いつつ、条約案を真剣に検討し、適切な措置を取る」と述べるにとどめた。 独仏などは署名の意向を宣言した。 条約案は締約国に対して、攻撃対象識別機能や電子式の自爆装置を備えるなど不発率が極めて低い「最新式」の一部を除き、 すべてのクラスター爆弾の「使用、開発、製造、入手、貯蔵、保有、移転(輸出入)」を禁じている。 保有国は条約発効後、原則8年以内に廃棄する義務を負う。 条約が発効すれば、現在、世界に存在するクラスター爆弾の「99%」が禁止対象となり、 「過去に紛争で使用されたすべてのクラスター爆弾が禁止される」(オキャリ議長)ことになる。 自衛隊が保有するクラスター爆弾もすべて禁止対象。 また、条約案は医療・リハビリ・社会復帰などでの手厚い被害者支援を盛り込み、過去にクラスター爆弾を使用した国が 相手国の不発弾処理を技術・財政的に援助することも求められている。 日欧など米国との同盟国の事情に配慮し「非締約国との軍事協力・作戦に関与できる」との条文が加わった。 ◆クラスター爆弾禁止条約案骨子◆ 1.「最新型」爆弾の一部を除き使用、開発、製造、保有、移転を禁止する。 2.原則8年以内に在庫を廃棄する。 3.不発弾を10年以内に処理。爆弾使用国は処理に協力する。 4.被害者を支援する。 5.非加盟国との軍事協力・作戦に関与できる。【欧州総局】 2008年5月30日(金)23時35分配信 (毎日新聞) |
「不発弾による市民の被害が絶えない」から、クラスター爆弾が禁止されたということであり、見方を変えれば、 「不発せずに爆弾の本来の目的を達する」ものは、従来どおり使用は制限されない、ということになる。 まあ、そういう意味では「戦争ゴッコ」が大好きな連中や、戦争で儲けている「戦争屋」が健在である限りは、 地球上から全ての戦争被害者がなくなる日は今世紀は難しいかもしれない。 ところで上記の記事が配信された翌日には、防衛省が反応し、陸上自衛隊提供の記事が出された。 |
<クラスター弾搭載陸自システム 2000億円の装備全廃へ> クラスター弾を搭載するため廃棄が浮上する多連装ロケットシステム クラスター弾の使用を一部を除き全面的に禁止する条約案に日本政府が同意したことで、 陸上自衛隊が保有する多連装ロケットシステム(MLRS)が全廃される見通しとなった。 約2000億円を投じた99両がすべて無駄になるばかりでなく、代替兵器の購入に巨額の防衛費が投じられることになる。 MLRSは子弾644発を内蔵したロケット弾(クラスター弾)を12発搭載できる専用の装甲車両。 海岸に上陸してきた敵にロケット弾を発射して、子弾を一面にばらまき、一瞬にして地域を制圧する。 「着上陸侵攻対処」の切り札として1992年度から米国から購入を開始し、現在は5個の特科大隊が合計99両を保有。 陸上自衛隊幹部は「戦術の見直しが必要になるだろう。MLRS一両の火力は、大砲三門分に当たる」と言う。 一両約20億円のMLRSを補うには155ミリ砲が三門、合計約12億円が必要になる計算だ。 MLRSには、クラスター弾ではない地対地ロケット弾「ATACMS(エータクムス)」も搭載できるが、 自衛隊は保有していない。ATACMSについて、別の幹部は「防衛専門商社『山田洋行』が輸入に関係しており、 収賄罪に問われた前事務次官、守屋武昌被告が熱心に購入を主張した。筋が悪すぎる」としており、購入の見込みはない。 クラスター弾の廃棄にも巨費がかかる。自衛隊が保有するクラスター弾は、ほかに戦闘機から投下すると202個の 子弾に分かれるタイプと、155ミリ砲から発射されるりゅう弾がある。 空自は「百億円かかる」(田母神俊雄航空幕僚長)とし、陸自は「不明」としている。 政府が対人地雷禁止条約を締結した後、防衛省は約100万個の対人地雷を約20億円かけて処分した。 「大局的な見地」(田母神氏)とはいえ、6年連続して減り続ける防衛費をさらに圧迫する材料となるのは間違いない。 2008年5月31日 07時08分(東京新聞) |
「約2000億円を投じた99両がすべて無駄」になることを強調しているようであるが、本来はそのような兵器は 使用されないことが最も望ましいのである。 ということは、使用されないことが望ましい兵器を持つこと自体が、大きな「無駄」になっているのは明白である。 「海岸線の長い国土を防衛するにはクラスター爆弾が必要」と主張してきた防衛省を後押しするようなメディアもある。 |
<クラスター禁止 安全保障上の代替策を探れ> 人道的見地による軍縮は必要だが、安全保障を損なうのも困る。 クラスター爆弾の禁止条約案が、100か国超の参加するダブリン国際会議で採択された。 クラスター爆弾は、内蔵する多数の子爆弾を空中で散布し、広範囲に地上を攻撃する爆弾だ。 費用対効果が大きい反面、海外では多くの民間人が不発弾の被害に遭っている。 近年、禁止を求める国際世論が急速に高まった。 被害が出ているのは、イラク、ラオス、アフガニスタン、レバノンなどだ。 いずれも遠い地域だが、クラスター爆弾を保有する日本も無関心ではいられない。 条約案は、「子爆弾9個以下」「自爆装置付き」「目標識別能力付き」などの条件を満たす最新型の爆弾を除き、禁止対象とした。 全面禁止に近い内容だ。 日本は、保有するクラスター爆弾のうち、自爆装置付き爆弾の例外扱いや、移行期間の設定を主張したが、認められなかった。 米国、中国、ロシア、韓国、北朝鮮などは、ダブリン会議に参加しておらず、クラスター爆弾に関して何の規制も受けない。 その意味で、日本の主張には理があるはずだが、他の参加国の理解を得るには至らなかった。 一方で、条約案には、非加盟国との共同作戦には関与できる、との条項が盛り込まれた。 米国との軍事協力の余地を残すもので、日英仏独などの主張が通った。 条約案は、参加国の圧倒的多数が推進した。内容面で多少不満があっても、人道上や軍縮推進の立場から、 日本が同意を決断したのは、妥当な判断だろう。 日本は12月に条約案に署名する方針だ。これに伴い、条約が発効すれば、自衛隊の保有する4種類、 総額276億円分の爆弾を8年以内に廃棄する義務を負う。 廃棄と代替兵器導入には総額数百億円を要するとも見られている。 防衛費の抑制傾向が続く中、少なくない金額だ。政府は、効率的な廃棄方法を含め、総合的な対応策の検討を急ぐ必要がある。 問題は代替兵器だ。 条約案の対象外となる目標識別能力付き最新型爆弾は、ピンポイント攻撃には適しているが、 広い範囲を攻撃し、「面を制圧する」ことはできない。 島国の日本にとって重要な、敵部隊の上陸を阻止する効果は小さいという。 完全な代替兵器を探すのは簡単ではない。米軍との防衛協力を含め、戦術面の見直しなども検討する必要があるかも知れない。 2008年6月1日(日)1時51分配信 読売新聞 |
憲法9条を撤廃し自衛隊を自衛軍にして、米国と一緒に世界中に派兵しろ、と長年喚きたてている新聞社の記事。 配信記事の最後の段落で記述されている「敵部隊の上陸を阻止」とは一体何を想定しているのだろう。 「ロシア」や「北朝鮮」が日本海沿岸から上陸してくることを本気で考えている専門家などはもはやいない。 今回の条約案に合意したことは、相変わらず仮想敵国を作り危機をあおり、使いもしない高価な兵器を買い集めるような 愚かなことを考え直す良いタイミングではないだろうか。 大手マスメディアには先陣を切ってこんなキャンペーンでも張ったらどうだろうか? <2008.6.1> |