裁判員制度

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

裁判員裁判:性犯罪事件で初 被害者配慮、入念に 質問票も工夫 青森地裁6人選任

 全国で初めて性犯罪事件を審理する裁判員裁判に向け、裁判員を選ぶ選任手続きが1日、青森地裁(小川賢司裁判長)であり、6人の裁判員が抽選で決まった。裁判員裁判は東京、さいたま地裁に続き3例目。この2例と異なり、選任手続きで事件の概要を説明する際、青森地裁は被害者の実名を伏せ、住所も自治体名にとどめるなどプライバシーに配慮した。6人は3人の裁判官とともに2日から始まる審理に臨み、4日に判決を言い渡す。【山本佳孝、後藤豪、山中章子】

 審理対象となるのは住所不定、無職の田嶋靖広被告(22)。09年にアパートに押し入り女性に性的暴行を加え、現金約5万円を奪うなどした2件の強盗強姦(ごうかん)罪を含む四つの事件で起訴された。

 選任手続きには、重要な仕事など事前に辞退が認められた候補者を除き、出席義務がある39人中、34人が出向いた。裁判員に選任されなかった候補者らによると、配布された質問票に事件概要が記されていたが、被害者は「Aさん」「Bさん」として年齢を表記。メモや録音、撮影を控え、被害者情報を口外しないよう求められた。

 また質問票で、被害者が住む自治体について「ご自身や家族が住んでいたり、ご自身が働いているなど、繰り返し訪れる事情がありますか」とも確認された。青森地検によると「被害者の知人や関係者を除外するため質問票に盛り込むよう地裁に求めた」という。続いて、質問票の答えを基に裁判長がグループごとに質問、12人には個別に質問した。「(事件関係者と)接触する機会があるか」と聞かれた候補者もいた。

 選任されなかった損保代理店部長の松田満さん(53)は「自分にも娘がいる。相当な感情移入があると思うので、裁判員になるのはきつい。被害者が一般の裁判員のいる法廷に立つことも相当の苦痛だと思う」と話した。

 ◇対象除外必要ない--政府の司法制度改革推進本部で裁判員制度に関する検討会委員を務めた四宮啓・国学院大法科大学院教授の話

 裁判所や検察は被害者のプライバシーに配慮してよく工夫した。私は、性犯罪を裁判員裁判の対象事件から外すことには賛成できない。主権者の国民を排除して、プライバシーのために裁判官だけで裁判することは制度としておかしい。権力は透明性を確保した上で、フェアに国民が行使するもの。国民が参加する中でどう被害者に配慮するかを議論すべきだ。

 ◇可能な配慮された--被害者のプライバシー保護を最高裁に要請した望月晶子弁護士の話

 自治体の人口によっては年齢を出したことで被害者の特定につながる懸念はあるが、名前を出さなかったことは評価できる。最高裁に、被害者とかかわりのある地域の住民を除外するよう要請した際、裁判員法で定める「公平な判断ができない」という要件に該当せず難しいと回答された。しかし青森地裁が「被害者が住む自治体を繰り返し訪れる事情があるか」と尋ねたことは、可能な限りの配慮をしたと思う。

==============

 ■解説

 ◇不安ぬぐう対応継続を

 裁判員の選任手続きでは、選ばれなかった候補者に守秘義務がないため「性犯罪被害者のプライバシーが守られない」という不安の声が出ていた。青森地裁は、裁判長が候補者全員に質問するなど慎重に手続きを進めた。青森地裁の方法は今後の参考事例になる。

 不公平な裁判をする恐れがある者を除くため、手続きでは一定の情報を候補者に開示することは避けられない。だが、個人情報が漏れる不安や、身近な人が裁判員に選ばれるかもしれないという心理的な負担が被害者側から指摘されていた。

 青森地検は候補者名簿を被害者に見せて知人がいないかを事前に確認。生活圏が重なる候補者を除外するための質問も地裁に求め、採用された。裁判員に選ばれなかった候補者によるとグループと個別で裁判長が全員に質問を実施。選任までに約2時間20分かけるなど、先の2例を上回る時間を手続きに割いている。

 だが、手続きは非公開のため、実際にプライバシーが守られたかを検証するのは難しい。地域によっては自治体名だけで被害者が特定される恐れもあり、質問票や裁判長の質問内容などには改善の余地もある。

 昨年、強盗強姦(ごうかん)など制度対象になる性犯罪事件は468件で全体の2割に上る。制度への不安をぬぐい去るには被害者が納得できる対応と結果を積み重ねるしかない。【銭場裕司、三股智子】

毎日新聞 2009年9月2日 東京朝刊

裁判員制度 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド