652票…“アニメ政策”訴えた38歳無職男の自爆選挙

供託金もちろん没収

2009.09.01


手作り感あふれるタスキで独自の選挙戦を展開した前田氏【拡大】

 総選挙で全国最多の候補者数となった東京1区(千代田、港、新宿)は、有権者数が約46万人という大票田。民主党の海江田万里氏と自民の与謝野馨氏の間で大激戦が繰り広げられたが、そんななか、わずか652票という全国屈指の低得票数で落選したのが無所属の前田禎信氏(38)。「失業中で、供託金300万円を没収されればスッテンテンで身動きできなくなる」という前田氏は、なぜ自爆覚悟で出馬したのか?

 前田氏は9人の候補者のうち最下位。当選した海江田氏とは約14万票もの大差をつけられた。しかも、得票数が有効投票総数の10分の1を下回ったため、供託金は没収される。

 前田氏の実質的な選挙戦は他の候補者より大幅に短い2日間だった。新潟市在住で「交通費もなく、東京の滞在費もバカにならない」という経済的理由からだ。貴重な2日間は、東京・秋葉原の駅前でたった1人、拡声器も使わずに白黒コピーのビラを配布した。「出来合いの物で作った」とタスキは、タオルにフェルトペンで名前を書いたもので「ビラも近所の5円コピーで印刷した」という。

 わざわざ東京1区に出たのは「新潟の有権者はテレビや新聞を見ただけで満足する人が多く、耳を傾けてくれない」。ホームページやニコニコ動画に自身の主張をアップし、“IT戦”を中心に主張を展開しており、立候補地は東京がふさわしいと判断した。

 都内や新潟県内で郵便局に勤めていた前田氏だが、「小泉郵政改悪で、お客さんへのサービスよりも利益優先になった仕事場に嫌気がさし」、2005年に退職。その後は無職で独身。「ハローワークでは、普通に結婚して子供をつくれるような職は見つからない。雇用情勢が良くなる展望も見えない」。自ら格差社会に苦しむ中で「いてもたってもいられなくなって出馬した」という。

 スローガンは「合衆国日本!」。道州制を意識しているかに見えるが「単純にアメリカ合衆国のように自由、人権、独立をアピールした。(架空の大国が戦うロボットアニメ)『コードギアス』を参考にした」と語る。政策の中にはアニメーターの所得向上や、若手アイドルが活躍したイベントスペースがあった秋葉原の石丸電気SOFT1(今年5月閉店)の代替施設を国費で借り上げる案も盛り込んでいた。

 だが、供託金没収で、すべてが水の泡に…。前田氏は「今は日暮里のホテルにいますが、これから職探しになるかな。もう選挙は難しいかもしれないが、こんな公約を掲げた人がいたと後々、伝わればいい。後悔していません」と晴々とした口調で語った。