大勢の記者に囲まれながら党本部を出る民主党の岡田克也幹事長=31日午後、東京・永田町、細川卓撮影
総選挙で民主党が圧勝し、政権交代を決めた8月30日夜。東京・六本木のビルに設けられた同党の開票センターの片隅で、鳩山代表と、小沢一郎、菅直人、輿石東の3代表代行、そして岡田克也幹事長が顔をつきあわせた。
小沢氏に近い輿石氏が口を開き、不快感を示した。
「いったい、政権移行チームって何なんだ」
官房長官や幹事長などの骨格人事を先に固め、政権移行にあたる――。そうした「政権移行チーム」が、岡田代表時代からの党の構想だ。鳩山氏や岡田氏は今回、その方式をとろうとしていた。
だが、ことは人事だけに党内の主導権争いを誘発する。岡田氏は小沢氏に距離を置く中堅・若手の支持が厚い。この日、岡田氏の側近たちは同氏に幹事長続投を求め、こうクギを刺していた。
「小沢一郎氏が幹事長になったりして、民主党が小沢支配にならないように」
小沢氏に党運営を委ねることに、党内の意見は真っ二つに割れる。鳩山氏は31日未明の会見で軌道修正を図った。
「(人事を)一部だけ決めるのは、他との兼ね合いも考えなければならない」
これまでの野党としての人事より、政権の人事ははるかに重い。一部でも先に人選を進めれば、収拾がつかない事態になりかねない――。
そんな懸念から、結局、人事はすべて先送りされた。
■権力の二重構造、再現に危機感
民主党内で小沢一郎氏からは距離を置く議員らが警戒するのは、与党の実力者が政府を外側から操る「権力の二重構造」の出現だ。
93年に与野党逆転で誕生した細川連立政権が、1年もたたずに崩壊したという「細川トラウマ」が頭をよぎる。岡田克也幹事長は著書「政権交代」で、同政権が短命に終わった理由を「最大の実力者である小沢さんが政府に入らなかったこと」だと書いた。
7党1会派をまとめあげた連立政権の立役者の小沢氏は当時、新生党の代表幹事だった。「権力の二重構造」と批判された小沢氏は、入閣しなかった理由を「党のまとめ役が閣僚になると、与党をまとめられない」と振り返ったことがある。
今回の新政権人事の焦点も、まさにそこにある。鳩山代表や菅直人代表代行が、幹事長ポストを閣外に置き、党運営に特化させる構想を描くと、小沢氏に距離を置く中堅・若手を中心に「小沢幹事長起用」への警戒が広がった。
党が掲げる「政治主導」を実現するための機構改革と、主要な幹部の人事とは、密接に絡まざるを得ない。
岡田幹事長が代表だった05年、政治主導をめざして作られた民主党の「岡田政権500日プラン」には「政権移行委員会」が明記されている。投開票翌日に首相や官房長官予定者と幹事長らでつくり、政権運営の基本方針を決定する――という内容だ。
だが、鳩山氏は31日、記者団に「連立協議には、まず幹事長を中心とした執行部体制のもとでしばらくは行動していく」と明言。政権移行チームの設置を求めてきた岡田氏も、「代表がそういうならそういう方針に従って当然やっていく」と容認した。
「政治主導」は、今回の総選挙でも前面に掲げた目玉。目的はまさに「権力の二重構造」をなくすことだ。現在の政府・与党の二元体制から、政策決定を一元化するため、党の幹部が主要閣僚を兼務する。族議員と官僚の癒着を排し、政策決定を迅速化する。政策決定を国民からみてわかりやすくする――。一連の改革の土台ともいえ、マニフェストでも「鳩山政権構想」として1ページを割いている。
さらにマニフェストには、予算の骨格などを決める首相直属の「国家戦略局」を置くことも盛った。その担当相は重要閣僚として位置づけ、政調会長が兼務。行政刷新会議で行政の無駄や不正を排除する構想も公約した。
今月半ばに見込まれる首相の選出や組閣が近づくなか、その仕組みづくりは、もはや待ったなしだ。
だが、幹部らが総選挙の遊説に集中していたため、生煮えなのは否めない。31日昼、菅氏、岡田氏は党本部で鳩山氏と国家戦略局について協議したが、その詳細な設計は幹部間で十分共有されているとはいえない。
小沢氏の二重権力構造と言われ続けるのではないか。30日夜、岡田氏は日本テレビの番組で問われ、答えた。
「そういうことになれば、民主党に対する国民の期待感がなくなる。小沢氏も色々な場で『人事は代表が決める。私は代表に従う』と言われている。心配する必要はない」
■連立2党は「与党協議の場を」
どれだけ内閣と民主党との一元化を図っても、連立政権に参加する他党とどう向き合うか、という課題が残る。
「連立について、幹事長から連絡があると思います」
「わかりました。よろしくお願いします」
民主党の鳩山代表は31日午前、社民党の福島党首に電話をかけ、連立協議について呼びかけた。午後には国民新党の亀井静香新代表にも「連立協議をやりましょう」と電話をかけた。
308議席獲得という大勝を果たした民主党だが、社民、国民新両党には低姿勢にならざるを得ない。7議席の社民党、3議席の国民新党などと連立を組まなければ、単独で過半数に届かない参院で、安定した国会運営がおぼつかなくなるからだ。
両党ともこれまでの方針通り、連立へ動き出した。社民党は2日に全国代表者会議で地方組織の意見を聴き、ていねいに手続きを進めたい考えだ。国民新党も、連立参加に一貫して積極的で、民社国3党連立は確実な情勢だ。
だが、連立を組む場合、与党間の政策調整をどう行うかははっきりしない。福島氏は31日、記者団に「(国民新党の)亀井代表と話したが、もし連立に参加した場合、与党間の政策協議の場が必要だ」と語った。内閣の機関とは別に、与党協議会のような調整機能が必要との認識を示したものだ。
民主党は首相直属の国家戦略局で予算の骨格を決めるとしているが、他党には予算に関与できるのか、不安がある。亀井氏は政権構想についても「国民新党や社民党と協議しなければいけない」と牽制(けん・せい)。選挙協力を担ってきた小沢氏も、国家戦略局には否定的との見方がもっぱらだ。
こうした連立の政策調整でカギを握りそうなのは、民主党の幹事長ポスト。「適任者」として社民、国民新両党から名前があがるのが、小沢氏だ。代表時代に両党との調整を引き受けており、両党から信頼が厚いからだ。
もし与党協議会ができれば、内閣に対して極めて強い「拒否権」を持つことになる。両党は数は少ないが、参院で反対すれば、法案が可決できなくなる局面を迎える可能性がある。そのときに、民主党幹事長が他党と連携すれば、内閣の政策決定をひっくり返すこともできる――。
民主党内の中堅・若手が「小沢幹事長」を警戒する理由は、その点にもある。
亀井氏には細川政権で下野した野党の自民党時代、旧社会党と連立して小沢氏らから政権を取り戻した、という因縁もある。それだけに「静香には気をつけた方がいい」との声が民主党内にはある。
「政治主導」への道のりは一筋縄にはいかない。31日夕方、連立協議について、記者団に問われた鳩山氏はあくまでも低姿勢だった。
「社民党さんと国民新党さんに対して、まずお願いをしようという話になっている」