「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明」

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

2009年8月31日(月)

踊る阿呆の「祭り」のあとに

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 3月には2ちゃんねるの「祭り」によって、すでに旬を過ぎて死に体だった著作『とてつもない日本』がいきなりアマゾンや紀伊國屋書店のランキング上位に入るくらい売れた。

 「ニコニコ動画」(2ちゃんねるの初代管理人である「ひろゆき」氏が「監修」という立場で参加している動画配信サービス)が実施した、ネット世論調査では、ニコニコ動画ユーザーの麻生内閣支持率は、5月28日の段階で、36.5%という高い数字(男性に限ると42.7%)を記録している。

 ちなみに、ほぼ同じ時期(6月13〜14日)に朝日新聞社が実施した調査における、麻生内閣の支持率は19%に過ぎない。そして、もちろん、アニキの歌同様、特定の店でのベストセラー順位程度は、少人数の組織的な購入で容易にいじれる。

 あるいは、麻生さんは、ここのところを読み違えたのかもしれない。

「ほら、若い人たちは、こんなにオレを支持してくれている」

 と。確かにアキバでの街頭演説や、ネット上の調査結果を見ていると、新聞の世論調査の方がむしろバイアスのかかったインチキに見えてきたりするわけだから。

 ほかにも、ネット上のアンケートは、安部元首相や石原慎太郎氏など、特定アジア(←ネット右翼が考案したとされる言葉。アジア諸国の中で、特に反日的な特徴を備える極東の三国、韓国・北朝鮮・中国を指す)に対して強硬な態度を示す人物に対して、一貫して好意的な反応を示すことになっている。

 特に、石原慎太郎氏は、「閣下」と呼ばれていて、若い人たちに人気が高い。

 もっとも、彼らが、本当に石原都知事の政策を支持しているのか、それとも、単におもしろがってクリックしているだけなのかは、誰にもわからない。少なくとも、現時点では、まだはっきりしていない。

*   *   *

 ネット右翼が大量発生しているのか、少数のネット右翼が、大量書き込みをしているのか、本当のところはわからない。結局、ネットというのはそういう場所なのだ。

 リアルな世界では、一人の人間の叫びは、一人分の声にしかならない。
 が、インターネットの世界では、一人の男が10万回クリックすることで、10万人分の怒号を演出することができる。
 と、10万の怒号がスクロールする画面を見た情報弱者はこう思う。

「おい、大変なことが起こっているぞ」

 と。
 違うのだよ麻生さん。ネトウヨは数が多いのではない。クリックの頻度が高いだけだ。つまりただのパラノイアだ。

 匿名のパラノイア。そんな支持を真に受けたのがたぶんあなたの失敗だった。自業自得。




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著者プロフィール

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。


このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。

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