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小澤一郎 スポーツナビ
_ 青森山田の特徴は、U−18日本代表の小澤竜己を軸としたタレントぞろいの攻撃陣
青森山田の特徴は、U−18日本代表の小澤竜己を軸としたタレントぞろいの攻撃陣【 Photo by 小林寿 】

「優勝候補」の実力
<1回戦 青森山田(青森)vs.柳ヶ浦(大分)>

2005年12月31日

 夏のインターハイ王者で今大会優勝候補の青森県代表青森山田が、鬼門となる初戦を実力を見せつける形で突破した。青森山田にとっては、夏のインターハイで初の全国優勝を飾った市原臨海競技場での初戦であり、対戦する大分県代表柳ヶ浦にとっては、初出場として迎える選手権初戦。「優勝候補」の呼び声高い青森山田以上に、柳ヶ浦の硬さが目立つ戦いとなったが、それ以上に青森山田の実力と経験は、柳ヶ浦を圧倒していた。

■得点以上の貢献をするエース小澤

 青森山田の特徴はタレントぞろいの攻撃陣。U−18日本代表でFC東京に入団が内定している、キャプテンのFW小澤竜己(こざわ りゅうき)を軸に、速攻・遅攻、中央・サイドを問わない、状況に応じた多様な攻撃を仕掛けることができる。絶対的なエース小澤の良さは、身長170センチと比較的小柄ながらも、フィジカルとバランスに優れ、点取り屋としてだけではなく、ラストパスも出せるその非凡なサッカーセンスにある。この試合でも前半16分に得たPKを落ち着いて決め、チームに先制点をもたらした。しかし得点以上に、1試合を通して周りの選手を生かすシンプルなダイレクトプレーや、キャプテンとして前線からチームを鼓舞する動きと声で勝利に貢献していた。

 一般的にFWは得点で評価されることが多いが、彼自身はあくまでチームとしての得点にこだわっている。夏のインターハイでも、彼はそれを強調していた。今大会一番の注目選手であり、既にプロ入りが決まっていることから、ハードマークを受けることは承知の上で、あくまでチームの勝利・結果につながるプレーを心掛けている姿勢からは、彼のサッカー選手としての完成度の高さを感じることができる。試合後、「(僕が)注目されてマークがきつくなるのは分かっていたから」と淡々と語る姿は、彼のクレバーさと勝利への強い執着心が表れる発言であった。

■小澤だけではない攻撃陣

 ただ、青森山田の攻撃陣は彼だけでは抑えられない。小澤と2トップを組む伊東俊は、夏のインターハイで得点王となり、その得点能力とそれを支える技術は実証済み。また、右サイドでは、100メートル11秒フラットの俊足で、小澤と同じくU−18代表に選出された松本怜が相手DFを置き去りにする。松本の良さは、スピードだけではない技術の高さ。クロスの精度はもちろん、縦のコースを切られたときの中への切り込みや、切り替えしての左足キックまでが一級品。まさに、右サイドは彼の独壇場である。実際この試合でも、松本の突破を抑えるために柳ヶ浦のセンターバックが左サイドバックのカバーに素早く入れるようなポジショニングを取っていたが、そのセンターバックの位置を見ながら自在にドリブルコースを変え、あっさりと2人を抜き去る場面もあった。
 そしてトップ下には2年生の司令塔、ベロカル・フランクがいる。しなやかな体を生かしたボールキープとパスセンスで決定的な仕事をすることができる選手だ。しかしながら、この試合ではあまりボールを受けることができず、ボールが入ったとしても数人に囲まれてボールを失うことが多かった。

 一方、青森山田のウィークポイントは、中盤の変則的な陣形により自然発生的に生まれる左サイドのスペース(対戦相手にとっては右サイド)。ダブルボランチと右サイドに松本という配置ながら、フランクがトップ下に入るため、中盤の左サイドが空いてしまうことが多い。FWの伊東がそこを埋めるべく左寄りのポジションを取っているものの、左サイドバックと伊東の間にはかなりのスペースが空いていることが多い。
 柳ヶ浦のキーマンはテクニックのあるレフティの金尚佑(キン サンウ)だったが、彼のポジションが左サイドではなく右サイドであったなら、また違った試合展開になったかもしれない。この金を中心に、柳ヶ浦の選手もベースとなる技術がある。硬さの取れ始めた後半になると、青森山田陣内に攻め込む時間帯が続き、後半のシュート数は青森山田を上回った。初出場ながらも実力の片りんを見せた柳ヶ浦は、大分トリニティ(現J1大分)で活躍していた野口健太郎監督の指導の下、強豪校への階段を一歩一歩上がっていることを証明したように思う。

■プレッシャーをはねのける“強さ”

「『優勝候補』と呼ばれる見えないプレッシャーはあると思う」と青森山田の黒田剛監督は試合後に語っていたが、このチームにはそのプレッシャーを跳ね返すだけの“強さ”がある。その裏には、サッカーチームとしての鍛錬はもちろんだが、私生活も含めた勝つために必要な努力と我慢がある。チーム全員が寮で厳しい生活を送っているため、サッカーだけではなく、私生活の面でも厳しさのある選手たちは実にたくましい。黒田監督も単に厳しいだけではなく、「なぜその厳しさが必要なのか?」という部分を常に強調している。そして、選手はその言葉を理解し、忠実に実行に移しているという。なぜならそれは、「勝つため」「タイトルを取るため」には必要なことだからだ。
 たくましいタレント集団、青森山田は“選手権優勝”という初夢を夢で終わらせない実力がありそうだ。

<了>

小澤一郎/Ichiro OZAWA
早稲田大学卒。大学在学中より指導者を目指し、当時から質の高いサッカーを展開していたスペインサッカーにはまる。学生時代に将来の準備としてバルセロナに留学し、その後は日本での2年間の社会人生活を経て、昨年1シーズンを通しスペインのバレンシアでトップチームを中心にスペインサッカーに触れ、見識を広める。現在は帰国し、高校サッカーの現場でコーチとして指導者の立場にいる。


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柳ヶ浦ベンチに飾られた寄せ書き。初出場校がインターハイ王者・青森山田に挑む
柳ヶ浦ベンチに飾られた寄せ書き。初出場校がインターハイ王者・青森山田に挑む【 Photo by 小林寿 】
青森山田・小澤竜己のシュートを体を使ってブロックする柳ヶ浦DFのチョ東錫
青森山田・小澤竜己のシュートを体を使ってブロックする柳ヶ浦DFのチョ東錫【 Photo by 小林寿 】
2点目を決めた青森山田の川西翔太
2点目を決めた青森山田の川西翔太【 Photo by 小林寿 】
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