▼飲み薬も登場
日本たばこ産業(JT)によると、2007年の国内の成人喫煙者率は26%。12年連続で過去最低を更新したが、スウェーデン19%、米国24%などに比べれば高率で、女性の喫煙者率も12.7%で横ばいだった。
国の調査では、全体の約7%の200万人が毎年、禁煙に挑戦していると推定される。
禁煙治療は、たばこの主成分であるニコチンへの依存を断ち切ることを目指す。薬物療法は従来、ニコチンガムや腕などに張るニコチンパッチが使われていたが、ここにきて、飲み薬という第三の禁煙治療薬が日本でも登場する可能性が出てきた。
米系の製薬大手ファイザーは1月末、新たな禁煙治療薬「チャンピックス錠」を国内で製造販売する承認を得た。
チャンピックス錠はニコチンを含まないが、ニコチンが作用する脳内の特定のタンパク質と結び付き、禁煙時の禁断症状を抑制。既に60カ国以上で400万人以上が利用しているといい、同社は「禁煙治療の幅を広げる」と国内市場への投入を計画している。
ただし、米国では副作用として自殺を引き起こす可能性があるとの指摘から医師向けの添付文書に「自殺行動など重い精神神経症状に注意すべき」との警告が追記された。日本での販売には曲折も予想される。
▼口中で顕著に
禁煙外来の治療は内科医などが担当するが、禁煙の必要性に気付かせる指導は歯科の医師が果たす役割も大きい。
福岡歯科大学の埴岡隆教授(口腔(こうくう)保健)は「喫煙は口の中に最も顕著に影響が表れる」と強調する。たばこの害は「非喫煙者と比べて肺がんでの死亡率4.5倍」など、心臓や肺への影響をイメージしがちだが、粘膜や唇の異常、歯石や口臭悪化など、多くの口の疾患に関係しているといい「発生頻度は低いが、喉頭(こうとう)(のど)がんでの死亡率は肺がんの七倍以上」と指摘する。
内臓などの疾患に比べて、口は患部を患者自身が自分の目で比較的簡単に確認できることから、埴岡教授は「歯科医が禁煙指導を行えば、効果は大きい」と主張。喫煙が歯科治療に及ぼす影響を写真や統計グラフにまとめたカラーチャートも作成中で「全国に配って歯科医に広げたい」と語る。
▼正しい知識を
2月上旬、福岡市中央区の市健康づくりセンターの「禁煙教室」。禁煙6カ月目の会社員が「酒はやめてもたばこはやめんが私の口癖でした」と体験を語り始めると、喉頭がんの手術をしたのを機に受講したという男性(65)は「まったく一緒」と共感の声を上げた。
隣の席には「結婚」を理由に禁煙を思い立ったという公務員女性(29)の姿も。呼気中の一酸化炭素濃度検査で「超ヘビースモーカー」と認定されたが「禁煙による禁断症状は3日目がピークで5日目を過ぎれば楽になる。深呼吸や歯磨きだけでも吸いたい気は紛れる」という医師の助言に「一度禁煙に挑戦しながら挫折したのが3日目。あの時、禁断症状のメカニズムや対処法を知っていたら」と苦笑していた。
禁煙の成功には、脱ニコチンとともに、食後の一服など、生活習慣として染み付いた喫煙行動を意識的に変えていく必要がある。「正しい知識を持ち、禁煙後のつらさや誘惑を乗り越えながら1日1日を積み重ねていけば達成できる」と、医師で同センター健康推進課の福原智子課長は語る。
同センターの禁煙教室は、アフターケアとして禁煙開始から一週間は毎日、1-3カ月は毎月一度、医師とともに保健師が受講者にファクスやメールで「禁煙続けてますか」と、応援のメッセージを入れてくれる。
そんなきめ細かさもあってか、受講を終える3カ月後の禁煙継続率は40%に達するという。
「1人じゃないから、今度こそ禁煙できそうです」。教室に参加した女性は、少し自信を深めた様子で帰路に就いた。
【写真説明1】埴岡隆医師
【写真説明2】喫煙と関連のある口腔異常。①歯石の増大②口腔がん③唇のただれ④口蓋粘膜の異常(埴岡医師提供)
=2008/02/11付 西日本新聞朝刊=