【バンコク西尾英之】中国国境に近いミャンマー北東部シャン州コーカン地区で、政府軍と少数民族コーカン族武装勢力が衝突。多数のコーカン族住民が混乱を逃れて中国側へ避難している。来年の総選挙を前にミャンマー軍事政権は、少数民族武装勢力に軍への完全帰順を要求。コーカン族がこれに従わないため、武力制圧に出た可能性がある。
現地からの情報によると今月8日、治安部隊が「麻薬密造の疑いがある」として武装勢力指導者の自宅を急襲したことがきっかけとなり、緊張が激化。24日には軍が武装勢力の拠点を占拠した。しかし一部の武装勢力は山間部に潜伏し、27日には中国との国境付近の複数の地点で軍に攻撃を仕掛けるなど、断続的に戦闘が続いている模様だ。死傷者の数などは不明。
中国からの報道などによると、コーカン地区と国境を接する中国雲南省には、戦闘を避けて1万人を超えるコーカン族住民が流出。省政府は居住施設の提供など人道支援を実施している。
コーカン族は約400年前に中国から移住した漢民族で、現在の人口は約4万人とされる。軍事政権が少数民族武装組織の取り込みを開始した89年、最初に政権と停戦合意を結んだ。
政権はこれまでにカレン族を除くすべての少数民族と停戦合意しているが、来年予定の総選挙を前に、国境地帯の治安安定を狙って各武装勢力に「軍の傘下に入ること」を要求。コーカン族のほかモン族、ワ族、カチン族など主要な少数民族組織が、「少数民族への弾圧だ」などとしてこれを拒否している。
今後、軍事政権は、コーカン族以外の武装勢力にも同様の軍事行動に出る可能性がある。タイを拠点とする反軍政組織「ビルマ連邦国民評議会」幹部は「政権が政治的危機にある今こそ、各民族が結束して武装蜂起すべき時だ」と強調。各民族が一致して抵抗を強めれば、政権が「民主化プロセスの総仕上げ」と位置付ける総選挙の実施にも影響が出かねない。
毎日新聞 2009年8月28日 20時49分