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2006.02.06
“ありふれた薬”に意外なリスク 抗コリン剤を継続使用の高齢者、8割に軽度認知障害
抗ヒスタミン剤や鎮痛剤など、ごくありふれた薬の長期使用が、反応が遅くなる、物の名前を思い出せないなどといった高齢者の軽度認知障害を引き起こしている可能性があることが分かった。高齢者に軽度認知障害が認められる場合、抗コリン剤の使用の有無を確認し、可能な場合には使用を中止すれば、認知障害が消失する可能性がある。
軽度認知障害を引き起こすリスクがあることが指摘されたのは「抗コリン作用薬」。制吐剤、鎮痙薬、気管支拡張薬、抗不整脈薬、抗ヒスタミン剤、鎮痛剤、降圧薬、パーキンソン病治療薬、コルチコステロイド、骨格筋弛緩剤、潰瘍治療薬、向精神薬など、一般に処方されている多くの薬剤が抗コリン作用を持つ。
仏国立保健医療研究所(INSERM)のMarie L Ancelin氏らは、認知症ではない高齢者で、抗コリン作用薬を1年以上使用しているグループと、使用していないグループの認知機能を比較し、使用群に広範な認知機能の衰えがあることを発見した。軽度認知障害と判断された人の割合は、対照群では35%だったが、使用群では80%と非常に高かった。詳細は、British Medical Journal(BMJ)誌電子版に2006年2月1日号に報告された。
米国の老人ホームでは、30%以上の高齢者が抗コリン剤を2種類以上使用しており、5種類を超える高齢者も5%いる、と報告されている。また、一般の人々の51%が抗コリン剤を使用しているとの推定結果もある。近年、処方せんなしに購入できる抗コリン剤も増えた。
抗コリン剤は、海馬の活動を低下させる。若者にこれを投与した研究の結果は、抗コリン剤が、認知症というより、加齢による認知機能の低下に似た症状をもたらすことを示した。高齢者の場合には、これらの薬剤の脳への影響が、より大きくなる可能性がある。血液脳幹門の透過性が高まる反面、代謝速度は低下している上に、多種類の薬剤を使用しがちだからだ。
こうしたことから著者らは、抗コリン剤が、高齢者に非変性性の軽度認知障害を引きおこしている可能性があると考え、縦断的コホート研究を行った。南仏Montpellier地区で、認知症ではない60歳超の372人を登録、2年間追跡した。
ベースラインで、抗コリン剤を1種類使用していたのは42人(11.3%)。9人(2.4%)が2種類以上を使用していた。それらの人々の中で、1年後も抗コリン剤を使用していたのは30人、うち26人が同じ薬剤を継続していた。また、新たに抗コリン剤の使用を開始した人が24人いた。使用されていた抗コリン剤は27種類。著者らの設定した副作用スコアが2の薬剤は4種類、より副作用が強いと判定された3が23種類だった。
分析はベースラインから1年後まで、抗コリン剤を使用していなかった297人(対照群)と、継続使用していた30人(使用群)を対象に行った。使用群の平均年齢は80.9歳、対照群は74.8歳で、有意な差があった(p<0.001)。
認知機能検査の結果の中で、年齢、性別、学歴で調整後も、対照群に比べ使用群で有意に劣っていたのは、反応時間、注意力、即時および遅延視空間的記憶、物語想起、言語の流ちょうさ、物品名の想起、視空間認知のなかの構成能力など。一方、論理的推理、単語リストの即時記憶と遅延記憶、潜在記憶などは両群間に差がなかった。
軽度認知障害に分類されたのは、使用群の24人(80%)と対照群の105人(35%)。既知の軽度認知障害危険因子(年齢、性別、学歴、未治療のうつ病、治療を受けた高血圧)で調整しロジスティック回帰分析を実施。軽度認知障害の有意な予測因子は、抗コリン剤の使用(オッズ比5.12、95%信頼区間1.94-13.51、p=0.001)と年齢(オッズ比1.09、95%信頼区間1.06-1.13、p<0.001)だった。
ただし、その後8年間追跡したが、両群の認知症発症率は、使用群16%、対照群14%で差は認められなかった。
得られた結果は、高齢者に軽度認知障害が認められる場合、抗コリン剤の使用の有無を確認し、可能な場合には使用を中止すれば、認知障害が消失する可能性があることを示唆している。
早期認知症患者にはしばしば、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が投与される。もし、抗コリン剤による軽度認知障害の患者にこれが投与されたなら、アセチルコリンの作用を抑制する薬剤と促進する薬剤が同時に用いられるという事態が起きることになる。
本論文の原題は「Non-degenerative mild cognitive impairment in elderly people and use of anticholinergic drugs: longitudinal cohort study」。アブストラクトはこちらで閲覧できる。(大西淳子、医学ジャーナリスト)