毎日新聞が実施した衆院選全候補者アンケートでは、所属政党別に主張の違いや重なる部分が鮮明になった。新議員の顔ぶれや政権の組み合わせ次第で日本の進路も変わる。憲法、外交・安全保障、経済政策、政治改革--。候補者たちの主張を多角的に分析した。
衆参両院に設置された憲法審査会は、国民投票法の規定上は来年5月から憲法改正案の審査や提出が可能になる。新たに選ばれる衆院議員がどんな憲法観を持つかは、今後の改憲論議を左右する。アンケートでは憲法改正への賛否と憲法9条改正への賛否を聞くとともに、集団的自衛権の行使を禁じた政府の憲法9条解釈を見直すべきかも尋ねた。
自民党は憲法改正に「賛成」との回答が97%で、「反対」は1人にとどまった。9条改正には「賛成」82%、「反対」11%。集団的自衛権の憲法解釈については「見直すべきだ」が77%に上り、「見直す必要はない」は15%だった。
連立を組む公明党も憲法改正に「賛成」73%、「反対」18%と改憲派が大勢を占めた。ただ、9条改正については「反対」71%、「賛成」24%と逆転。集団的自衛権の憲法解釈も「見直す必要はない」が92%を占め、9条を巡る自民党との主張の違いが鮮明になった。
民主党も憲法改正に「賛成」が57%で多数派だが、自民、公明両党より低い。「反対」も24%あり、改憲派と護憲派が混在する党内事情が反映された。9条改正については「反対」66%、「賛成」17%で、公明党と同様、9条以外の改憲を支持する意見が強い。集団的自衛権の憲法解釈については「見直す必要はない」61%、「見直すべきだ」25%だった。
共産、社民両党は憲法改正、9条改正とも全員が「反対」。国民新党は憲法改正には「賛成」が7割を超えたが、9条改正には5割が反対した。
自民、民主両党の回答を前元新別でみると、自民党は傾向にあまり差がなかったのに対し、民主党では、9条改正賛成派は前職が26%、新人が12%で、新人の方が慎重だ。民主党は新人候補の比率が5割を占めており、選挙結果が党の改憲へのスタンスに影響する可能性もある。
◆対北朝鮮政策
北朝鮮が4月に長距離弾道ミサイルを発射し、5月に2回目の核実験を行ったのを受け、政府の対北朝鮮政策に関する考えを聞いた。自民党は(1)「圧力をより強めるべきだ」59%(2)「妥当だ」31%(3)「対話をより進めるべきだ」5%--の順。民主党は(1)「より圧力」52%(2)「より対話」23%(3)「妥当」8%--だった。両党とも圧力論が主流になっている。
これに対し、公明党は「妥当」が53%で最も多く、「より圧力」(31%)、「より対話」(14%)と続いた。自民党は政府の政策への評価が相対的に低く、与党内の温度差がうかがえる。
毎日新聞が昨年10~12月に実施した立候補予定者アンケートでは、北朝鮮による拉致問題を解決するため、対話と圧力のどちらを重視すべきかを二者択一で聞いた。「対話」と「圧力」の比率は、自民党が16%と64%。民主党が28%と49%、公明党が31%と41%だった。今回の結果と単純比較はできないが、この間、北朝鮮が核実験などを行ったことで、対話派が減少傾向にあるとみられる。
共産党は昨秋、ほぼ全員が「対話」と回答していたが、今回は「より対話」55%、「より圧力」42%と意見が分かれた。社民党は全員が「より対話」だった。
「より圧力」と答えた層では、日本の核武装について「今後の国際情勢によっては検討すべきだ」との考えが32%(全体では23%)、「検討を始めるべきだ」が14%(同9%)に上った。今後の北朝鮮の動向が核武装論議に影響を与える可能性もありそうだ。
◆核武装論
北朝鮮による2回目の核実験やオバマ米大統領の核廃絶演説を受け、米国の「核の傘」に頼ってきた日本は核問題にどう向き合うかがこれまで以上に問われている。アンケートでは日本の核武装について「将来にわたって検討すべきでない」「今後の国際情勢によっては検討すべきだ」「検討を始めるべきだ」「核兵器を保有すべきだ」の四つの選択肢で質問した。
自民党の候補者は70%が「検討すべきでない」、23%が「今後の国際情勢によっては検討すべきだ」、2%が「検討を始めるべきだ」と回答。民主党は90%、公明、共産、社民3党は全員が「検討すべきでない」と答えた。
自民党では昨秋の立候補予定者アンケートで17%だった「情勢によっては検討すべきだ」が6ポイント増えた。同様の質問をした03年は30%、05年は19%で、増加に転じたのは今回が初めて。06年に北朝鮮が最初の核実験を実施した際には中川昭一政調会長(当時)が「攻められないようにするために核(兵器保有)も議論としてある」と発言。当時外相だった麻生太郎首相も同調したものの論議は広がらなかったが、北朝鮮による今年4月の弾道ミサイル発射、5月の2回目の核実験が自民党内の検討容認論を強めたとみられる。
候補者全体では「検討すべきでない」65%(昨秋87%)▽「情勢によっては検討すべきだ」23%(同9%)▽「検討を始めるべきだ」9%(同1%)▽「保有すべきだ」0%(同0%)--だった。核武装検討論の強い政治団体「幸福実現党」が300人以上の候補者を立てた影響で割合が大きく変化した。
◆靖国神社のあり方
民主党の鳩山由紀夫代表が新たな国立追悼施設の建設に取り組む方針を示し、靖国神社のあり方が衆院選の争点に浮上した。麻生太郎首相は在任中に靖国神社に参拝せず、鳩山氏も首相に就任した場合は参拝しないことを明言。在任中に毎年1回参拝した小泉純一郎元首相の時代と違い当面は「靖国」が国際問題化する懸念は薄まっているが、A級戦犯の分祀(ぶんし)なども検討課題として残されており、アンケートで考え方を聞いた。
候補者全体では「別の追悼施設を国がつくるべきだ」との回答が45%で最も多く、「現状のままでよい」35%▽「A級戦犯を分祀すべきだ」12%▽「非宗教法人化すべきだ」3%--の順になった。
政党別にみると、自民党では「現状のまま」が61%、「A級戦犯分祀」が22%。麻生首相が外相当時の06年に提唱した「非宗教法人化」は5%にとどまり、党内で支持が広がっていないことを示した。「別の追悼施設」も5%だった。
これに対し、民主党は「別の追悼施設」が62%で、「A級戦犯分祀」の18%、「現状のまま」の14%を大きく上回った。衆院選のマニフェストにはないが党の政策集には「特定の宗教性をもたない新たな国立追悼施設の設置」に取り組むことが明記されている。公明、共産両党は9割以上、社民党は全員が「別の追悼施設」と答えた。
また、日本外交のあり方について「これまでよりアジアに比重を移すべきだ」と答えた層では、「別の追悼施設」が67%に上り、中国、韓国など近隣諸国への配慮から靖国問題をとらえる意識がうかがえた。
◆取り調べ全面可視化
栃木県足利市で90年に女児が殺害された「足利事件」で冤罪(えんざい)が明らかになったことや、裁判員制度の開始を受け、犯罪の容疑者に対する取り調べの全過程を録音・録画する「可視化」の議論が活発になっている。全面可視化について、自民党の候補者は「賛成」52%、「反対」34%だったのに対し、民主党は「賛成」96%、「反対」3%と対照的な結果になった。公明、共産、社民党でも「賛成」が9割を占めた。
政府・自民党内には「全面録画は取り調べの機能を損なう」との慎重論も根強い。民主党など野党は過去5回、全面可視化を義務付ける刑事訴訟法改正案を国会に提出したが、いずれも否決か廃案になっている。
今回の衆院選で民主、共産、社民各党はマニフェストに全面可視化を盛り込み、公明党も「可視化の本格実施」を明記した。選挙結果次第で法改正が進む可能性がある。
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◆質問と選択肢
(1)賛成
(2)反対
(1)賛成
(2)反対
(1)見直すべきだ
(2)見直す必要はない
(2)A級戦犯を分祀すべきだ
(3)非宗教法人化すべきだ
(4)別の追悼施設を国がつくるべきだ
(1)制限すべきだ
(2)問題はない
(1)小選挙区を削減すべきだ
(2)比例代表を削減すべきだ
(3)小選挙区、比例代表とも削減すべきだ
(4)削減する必要はない
(1)禁止すべきだ
(2)禁止する必要はない
(1)問題だ
(2)問題ではない
(1)政府の仕組みを抜本的に変え、政治家が政策の決定と説明に責任を負うべきだ
(2)政府の仕組みを変えなくても、政治家が官僚をうまく使いこなせばよい
(1)成功
(2)失敗
(3)どちらとも言えない
(1)賛成
(2)反対
(1)大いに評価する
(2)ある程度評価する
(3)あまり評価しない
(4)まったく評価しない
(1)賛成
(2)反対
(1)妥当だ
(2)もっと削減すべきだ
(3)削減しすぎだ
(1)導入すべきだ
(2)導入すべきでない
(1)保険料方式
(2)全額税方式
(1)賛成
(2)反対
(1)禁止すべきだ
(2)禁止すべきでない
(1)格差是正につながるので賛成だ
(2)企業の経営を圧迫するので反対だ
(1)日米関係を最重視すべきだ
(2)これまでよりアジアに比重を移すべきだ
(1)派遣すべきだ
(2)派遣すべきでない
(1)将来にわたって検討すべきでない
(2)今後の国際情勢によっては検討すべきだ
(3)検討を始めるべきだ
(4)核兵器を保有すべきだ
(1)妥当だ
(2)圧力をより強めるべきだ
(3)対話をより進めるべきだ
※地域面の回答一覧で比例候補の政党の「幸」は幸福実現党
毎日新聞 2009年8月20日 東京朝刊