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自傷からの回復

隠された傷と向き合うとき


感情的な痛みに対処するため故意に自らの身体を傷つける行為、「自傷」――。
古代ギリシアの歴史家・ヘロドトスが編纂した『歴史』のなかには、紀元前5世紀にスパルタの指導者だった男が、ナイフで故意に自分を激しく傷つける場面が登場する。自傷という現象はときとして神秘性を帯び、はるか以前より存在してきた。けっして今日的な若者の流行などではないのである。そして自傷が人目に触れない「隠された儀式」であり、けっしてまれなケースではないことを、本書で言及される豊富すぎる事例や研究文献が物語っている。
自傷は特定の精神障害に付随して見られる「症状」ではなく、アルコール・薬物依存症などと同じアディクション(=嗜癖)である。著者独自の自傷理解により、自傷を手放し、全人格的に自傷への依存から回復するということの意味、その道のりの険しさがよくわかるだろう。
本書は、自傷から回復した過去をもつ心理学者によって書かれた。自傷から抜け出すにはどうしたらよいのか。そして自傷している人にどのように手をさしのべればよいのか。すべての言葉が、回復とその援助を望む人のために綴られた本である。
元自傷者としての体験と心理学者としての臨床経験。著者の二つの思いが交錯し、真に回復を祈る本書は、これまでの自傷論にない説得力を帯び、回復への希望に満ちている。


「自傷からの回復」の著訳者:

V・J・ターナー
V.J.Turner
「V. J. ターナー」という名前は臨床心理学者のペンネームであり、実名や所属は不詳。彼女に関して明らかなのは、以下の二つのことである。一つは、博士研究員として有名大学医学部で研究に従事するかたわら、アディクション問題を持つ患者を対象とする臨床活動を行ってきた、ということである。そしてもう一つは、彼女自身がかつて自傷行為を繰り返していた当事者であり、自傷行為からの回復のために、アルコール依存症の自助グループであるA.A.(Alcoholics Anonymous)に参加し、本書執筆の時点で、少なくとも7年間、自傷行為をやめつづけている、ということである。
※ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。
小国綾子
おぐに・あやこ
ジャーナリスト。1990年京都大学教育学部卒、同年毎日新聞社に入社、2007年退社し渡米。メリーランド州在住。著書に『薬(ドラッグ)がやめられない――子どもの薬物依存と家族』(青木書店 1999)『魂の声 リストカットの少女たち――私も「リスカ」だった』(講談社 2005)、共著に『いいじゃない いいんだよ――大人になりたくない君へ』(講談社 2005)がある。
※ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。
松本俊彦
まつもと・としひこ
国立精神・神経センター精神保健研究所自殺予防総合対策センター自殺実態分析室長(薬物依存研究部診断治療開発研究室長併任)。佐賀医科大学医学部卒。神奈川県立精神医療センター、横浜市立大学附属病院精神科などを経て現職。著書に『薬物依存の理解と援助』(金剛出版 2005)『思春期臨床の考え方・すすめ方』(分担執筆 金剛出版 2007)『犯罪と非行の心理学』(分担執筆 有斐閣)ほか多数。訳書にウォルシュ&ローゼン『自傷行為』(共訳 金剛出版 2005)ウォルシュ『自傷行為治療ガイド』(共訳 金剛出版 2007)ほか多数。
※ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

目次

第1部 自傷を理解するために大切なこと

第1章 自傷とは何か
自傷の定義
なぜ自傷なのか
自傷とは何であって何ではないのか?
秘密、沈黙、そして恥の意識
治療者側の「誤解」と「負の感情」
痛みへの依存
あなたやあなたの知りあいはこんな特徴を持っているだろうか

第2章 なぜ「アディクション」なのか
自己治療仮説
生化学理論――トラウマ、アディクション、そして自傷
反応ではなく対応
故意の自傷――気分の段階的な上昇と降下のサイクル
自傷行為のための研究用診断基準

第3章「アディクション」の変遷――物質のアディクションと行動のアディクション
アルコール、薬物、そして自傷
摂食障害と自傷
なぜ摂食障害なのか
自傷と摂食障害との関係
アディクションとしての相似点――拒食、過食、そして自傷
行動のアディクション
運動アディクション
強迫的な買い物と浪費
性行為および恋愛アディクション
幼少期の性的虐待被害、クロスアディクション、そして再発
再発防止

第4章 幼少期の体験、もしくは心理的・感情的要因
幼少期の身体的・性的虐待、ネグレクト、その他のトラウマ
危険にさらされた子ども――リーナとジェレマイア
自傷に関連する精神医学的障害とパーソナリティ障害

第5章 自傷の歴史と現在――なぜいま増加しているのか?
自傷の歴史――宗教的な背景を持つ自傷の事例
自傷に関する学術論文の歴史

第2部 回復への道

第6章 治療の選び方
心理検査とは何か
心理療法に何が期待できるのか
救急処置
危機介入
力動的心理療法
人間性主義心理療法
行動療法
集団療法
家族療法
精神科薬物療法
12ステップおよびその他の自助グループ
ストレス低減法とバイオフィードバック法
なぜ治療はよく失敗するのか
治療の成功への鍵

第7章 あなた自身のスピリチュアルな空虚感と向き合うとき
宗教 vs. スピリチュアリティ
回復の身体的側面と感情的側面
回復のスピリチュアルな側面
児童虐待、トラウマ、そして神
ハイヤーパワーとは何か
スピリチュアルな目覚め
症例――スピリチュアルな空虚感と向き合う
自傷行為に対する12ステップの適用
12ステップ――回復の基本ツール
スピリチュアルな成長を促すための実践的な提案

第8章 あなた自身やあなたの知人が自傷しているなら
悪循環のなかでの立ち往生
自傷する人たちへ
心配をする周囲の人々へ
援助提供源ガイド

第9章 回復のためのワークシート
サバイバルのためのツール――治療において用いるワークシート
回復中の自傷者が一人でできる記入式の課題

第10章 回復のための10箇条
第1条 自傷行為をやめ二度と行わないと誓い、その誓いに全霊を傾ける
第2条 できるだけすみやかに専門家の援助を求める
第3条 自傷衝動が強まった緊急時に、どうすれば自分を落ち着かせられるのかを知っておく
第4条 しっかりとした社会的支援システムを確保する
第5条 自分の身体的な問題を解決する
第6条 自分の感情的な問題を解決する
第7条 自分のスピリチュアルな問題を解決する
第8条 自己価値や自尊心を高め、確実なものとする
第9条 自傷とは何なのか、回復には何が必要なのか、自傷を再発せずに回復を維持するためには何が必要なのかについて、知識と理解を深める
第10条 前向きな姿勢を持ち、それを維持する――自傷問題から抜け出し、解決するために

解題
訳者あとがき
文献

この本の関連書


「自傷からの回復」の画像:

自傷からの回復

「自傷からの回復」の書籍情報:

A5判 タテ210mm×ヨコ148mm/304頁
定価 4,410円(本体4,200円)
ISBN 978-4-622-07462-5 C3011
2009年5月20日発行

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