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社説

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09総選挙 生活保障―重層的に支える制度へ

 社会保障のほころびの是正、セーフティーネット(安全網)の再構築が大きな争点になっている。

 注目すべきは、従来の年金、医療、介護を中心とした社会保障の枠組みを超えて、雇用や教育にもまたがる広い分野で提案が出ていることである。

 これらを有機的に結びつけ、重層的な取り組みで暮らしの安心を実現する。「暮らし保障」または「生活保障」と呼ぶべき新しい包括的な政策体系づくりを進めるべき時だ。

 雇用の分野では、緊急措置として行われている職業訓練期間中の生活費支援を制度化しようという声が、与野党から出ている。雇用の安定あってこその暮らしだ。働く機会を得ようとする人々を支える仕組みは強化したい。

 教育分野でも、高校の授業料の無償化や、給付型の奨学金の導入を各党が公約で競う。誰でも教育が受けられるようにすることは、貧困と格差の再生産を防ぐためにも欠かせない。

 同時に大切なのは「住まい」の安全網だ。「派遣切り」で仕事を失った途端に住む所も失った人たちが大量に出たことは、記憶に新しい。公的扶助の仕組みとして、住宅手当なども検討する時期に来ているのではないか。

 また、生活の自立を後押しする取り組みにも力を入れなければならない。こうした重層的な仕組みをつくれば、全体的な社会的コストが膨らむのを抑えることにもつながる。

 雇用政策では、仕事を失った人への所得保障だけでなく、職業訓練・能力開発の拡充など、積極的な就労・生活支援の中身を充実させ、真に仕事に結びつく支援にすることが大事だ。

 安全網の象徴である生活保護にしても、今は、受給世帯の半分近くをお年寄りが占めていて、ワーキングプアと呼ばれるような現役世代の自立支援に役立っていないと言われている。

 貧困生活に陥ってからでは遅い。その手前で、もっと広く制度を利用しやすくするとともに、専門の相談員によるきめ細かな生活支援を組み込んで自立をサポートすべきだ。

 こうしたきめの細かな行政サービスを進めるには、住民に身近な自治体が中心になって、地域の実情やニーズに合ったサービスを提供できるようにするのが望ましい。どういう仕事と財源を地方に移すのか。国と地方の役割分担の見直しも必要である。

 こうしたサービスの担い手は、国や自治体とは限らない。民間のNPO(非営利組織)などの担い手を増やしていくことも課題になるだろう。

 今の社会保障のほころびを繕うだけでなく、時代に合った形に組み替えながら、みんなで支え合う連帯社会をどう作り上げていくか。

 各政党は生活保障の未来図について、とことん語る責任がある。

紛争と国際法―人道外交の旗を掲げよ

 熱い総選挙が繰り広げられている日本にも、世界の紛争地からさまざまなニュースが飛び込んでくる。

 大統領選挙が行われたアフガニスタンでは、反政府勢力による投票所への攻撃で約30人が亡くなった。イラクやロシアでも自爆テロが起きている。テロや空爆による犠牲者の多くが、女性や子どもを含む一般住民だ。

 選挙戦での外交論争が、日米同盟や、北朝鮮問題を含むアジア外交のあり方に集まるのは当然だ。しかし、世界の紛争を解決し、平和を築くために日本がどういう役割を果たせるのか。その議論も忘れてはなるまい。

 中でも国連の平和維持活動(PKO)や平和構築への協力に比べて、これまであまり議論されてこなかったのが、国際人道法への貢献である。

 ジュネーブ条約を柱とする国際人道法は、一般住民への攻撃禁止といった決まりのほかに、非人道的な兵器を追放し、集団虐殺などの戦争犯罪を裁くことを各国に求めている。

 この分野で日本が積極的に行動してきたことは、意外に知られていない。

 97年にカナダ政府などの呼びかけで対人地雷禁止条約ができた。この時、政府内の慎重論を抑えて条約署名を決断したのが故小渕恵三外相だった。

 空中に投下された爆弾から多数の子爆弾が飛び散るクラスター弾についても、麻生政権は条約への参加を決め、野党も賛成して国会で批准した。

 6年前にできた国際刑事裁判所にも日本は参加し、資金を出している。

 米国や中国は自らの軍事行動が制約されるのを嫌がって、これらの条約や国際刑事裁判所に加わっていない。

 ともすれば米国との距離だけに気を配りがちな日本外交が、人道法の分野でこれだけ実績を積み重ねてきた。このことは大いに評価したい。

 問題は、こうした政策を進めながらも、政府がそれを独自の外交理念に深めようとせず、アジア外交にも十分生かしていないことだ。官僚まかせの弊害がここにもはっきり見える。

 アジア地域でクラスター弾禁止条約を批准したのは日本とラオスぐらいだ。国際刑事裁判所への参加もこの地域で十数カ国にすぎない。欧州などに比べて、アジア諸国の参加は少なすぎる。政府は今こそ人道外交の旗を掲げ、域内各国に両条約や国際刑事裁判所への参加を求めていくべきだ。

 「人間の安全保障」の理念とともに、国際人道法をアジアの平和実現への礎石にしなければならない。

 いくつもの人道条約への参加にあたっては超党派の国会議員の活動が後押しとなった。こうした議員によるアフガン和平会議がこの秋、東京で開かれる予定だ。いともたやすく命を奪われる住民をいかに減らすかを真剣に話し合ってほしい。

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