マウスを使える場所がまた1つ増えた。ガラスの上という日常的にも遭遇しやすい場所をロジクールの新製品が克服したのだ。今回は、その使い心地を試してみた。
●マウスが苦手なガラスのテーブルノートPCには必ずスライドパッド等のポインティングデバイスがついているが、腰を落ち着けてテーブルで作業ができる場合は、やっぱりマウスがあった方が効率がいい。だから、出張時には必ずマウスを持参するし、普段、外出する際のカバンにもマウスを忍ばせている。ただ、出張の場合は、スーツケースの中にマウスパッドを忘れないようにする。というのも、数泊の出張で宿泊するホテルの居室に置かれたデスクが、ガラス製である確率がとても高いからだ。ちなみに、ロジクールの調べによると、アメリカの場合、家庭の47%にガラスのテーブルがあり、その49%が、週に一度はその上でマウスを使うという。これはかなり高い確率だ。
雑誌やパンフレットなどを敷いてマウスパッド代わりにするということもできるが、やはり、専用に作られたマウスパッドの使い勝手にはかなわない。だから、出張にはマウスパッドは必須だ。
一方、普段の外出でも、打ち合わせに使った喫茶店、訪問した先の応接室のテーブルがガラス製ということはよくある。ほんの短時間の打ち合わせでメモをとったり、予定を確かめたりといった程度ならマウスを使うこともないが、ミーティングが数時間続くといった場合にはやはりマウスがほしくなる。
ところが、ご存じのように、マウスは、透き通ったガラステーブルの上では使えない。光学式マウスである以上、光を透過してしまう素材の上では、うまく機能してくれないのだ。マウスの仕組みは、照射した光の反射をセンサーでとらえ、軌跡のテクスチャを認識し、自分の移動した距離や速度、方向を知るのだから、光が透過してしまっては、それができない。だからといって、いまさら、ボール式マウスに戻ることもできまい。
●2つのレーザーでテクスチャを浮かび上がらせるロジクールは、暗視野検鏡法という技術を使って、ガラス面でのトラッキングを可能にし、マウスが使えるフィールドを大きく拡張した。ガラス面などの透過素材上にいることを認識すると、2つのレーザーで照射し、ガラスの表面に付着した微少な粒子や傷が拡散させた光を検出するという。これによって、ガラスはもちろん、大理石や、アクリル塗装面などでのトラッキング精度が著しく向上した。ロジクールは、この技術にDarkfieldテクノロジーと命名した。
ただし、常に2つのレーザーが照射しているわけではない。素材が透過であることを認識した時点で2つめのレーザーがオンなる仕組みで、バッテリの使いすぎを防止している。そのせいか、透明な素材の表面に置き、最初に動かすときに、ちょっとしたひっかかりを感じることがあった。
映画館を想像してほしい。スクリーンのずっと手前から照射される光の軌跡を観察すると、空気中のホコリが舞っているのが見える。あるいは、暗い夜空の元では、昼間には目視できない星の光が見える。これが拡散光によるものであり、それをトラッキングに利用するということだ。
実際に、新製品の1つデスクトップ用のフルサイズマウス「Performance Mouse M950」を試してみた。そして、従来のマウスでは、ポインタがピクリとも動かないようなガラス板の上でも正確に操作ができることを確認した。
この製品は、水平スクロールを含む9ボタン装備のマウスで、ホイールの手前に高速スクロール機能の切り替えスイッチ、左側面の戻る、進むボタンの下にズームボタン、そして、左側下のスカート部分にもボタンを装備する。それぞれのボタンにはユーティリティを使って任意の機能を割り当てることができる。
ロジクールでは、操作が可能になるガラスの厚みは4mm以上としている。まあ、このくらいであれば不便を感じることはないだろう。実際、テーブル等で試してみてもまったく問題なく使える。鳴り物入りで登場したマイクロソフトマウスのBlueTrackテクノロジーが、トラッキングの精度を格段に向上させたものの、なぜか、タタミの上での誤動作が多く、ちょっとがっかりしていた矢先だったので、今回のガラス面での操作感には、ちょっとした感動を覚えた。
なお、電源は単3形の充電式ニッケル水素1本で、付属品として、USBを給電するACアダプタとケーブルが付属する。ケーブルの片側はマイクロUSBコネクタで、マウス本体の先頭部分に端子を装備し、ケーブルをここに装着すると、まるで有線マウスのような状態になる。ケーブルの反対側を添付のACアダプタに装着するか、PCのUSB端子に装着すれば、充電しながらの使用ができる。ただし、PCのUSB端子に装着したときに有線マウスとして作動するわけではない。また、ロジクールで保証しているわけではないが、一般的なニッケル水素電池は本体から簡単に脱着でき、一般の充電器で充電してしまってもいいだろう。
●1つのレシーバーに6台までのデバイスをペアリング今回のロジクールの製品には、もう1つうれしい付加機能がある。超小型ユニファイイングレシーバーが付属しているのだ。通常、ワイヤレスマウスは、レシーバーと本体が1対1でペアリングされるが、このレシーバーには最大6台までのマウスやキーボードを関連づけておくことができる。
このマウスの底面にはレシーバーを収納するスペースがない。レシーバーはPCに装着しっぱなしでよいくらいに小さいのだから、そんなスペースの必要はないだろうという判断なのだろう。同時に発表されたモバイル用のマウス「Anywhere Mouse M905」でさえ、レシーバー収納部は電池室の中と、アクセスしやすいとは言い難い場所にある。
レシーバーとマウスは、工場出荷時にペアリング済みで、普通は購入してきてパッケージを開き、マウスの電源を入れてレシーバーをPCに接続すれば、すぐにHIDとして使えるようになる。そして、添付のユーティリティであるSetPointをインストールして、ボタンへの機能割り当て変更など、各種の拡張機能を使う。
さて、マウスをもう1つ購入したとしよう。マウスには別のレシーバーが付属してくる。今までだったら、2つのマウスを使い分けたいときのために、2つのレシーバーをPCに装着しなければならなかった。だが、ユニファイイングレシーバーは、6台までの対応デバイスと関連づけられるため、どちらのマウスを使う場合も、レシーバーはそのままで1つだけいいのだ。よく持ち出すカバン、それぞれに別のマウスを入れておき、PCだけをどちらかのカバンに入れて持ち出すような使い方でも、レシーバーを差しかえる必要はない。欲をいえば、複数のレシーバーに1つのマウスがペアリングできるようならもっとよかった。Bluetoothマウスがそうであるように、マウスが一台の親しか覚えてくれないと、再ペアリングの必要があり、その操作が、どんなに簡単だとしても、ちょっと不便を感じる。
今後、HIDはマウスやキーボード以外にも、さまざまなものが登場するだろう。ビデオ再生のリモコンや、ポインティングデバイスでも、用途やアプリケーションに特化したものが出てくる可能性がある。それらが1つのレシーバーでつながるということは、また、新たなPCの使い方を提案するということでもある。
実際には、この使い方は、Bluetoothが担うべきものだった。以前も書いたが、本心をいえば、独自の無線技術ではなく、ロジクールは、今後の製品でBluetoothを全面的に採用することをコミットし、ユニファイイングのトレンドを推進するというアナウンスであってほしかった。